困るんですよね
悩む私を楽しそうに見ているタキは「ここで考えていても仕方がないでしょう」と私をギルドへ誘導。
ギルド長執務室へ通された私はまず最初にドンさんと目が合った。
「えっ、ドンさん?」
ドンさんが居ると言う事は、この前の農家さんとの契約の件で何か不味かったのかな?
単独契約ダメとか、ギルドを通さなければならなかったとか?
「やぁ、エトラ。立って話もなんだから、こちらへ来て座ってくれ。勿論メイソンも一緒に」
ギルド長はニコニコと言ってはいるが、目が笑ってないように思えるのは何故か?
「あの、仕入の件でしたら俺は担当外ですので、ここで失礼しても」
メイソンさんは早くも逃げに入っている。
「ハハハハ、何を言っているのかな?1度は商会の会長になろうとした人間が担当外も何もないだろう」
まぁ、そうなんですが。
ギルド長は更にニコニコと話をするが、何故か先程よりも温度が数度下ったように思える。
「メイソンさん。男には諦める時も必要なんですよ」
私が遠い目をしながら言うと
「全てエトラが暴走したせいだろう」
涙目でメイソンさんは訴えて来る。
まぁ、そうなんだけどね。
でも、王室へ払う賠償金には毎年利息が上乗せになっているらしいと、この前、この世界の勉強をしていて知ったのだ。
1分1秒でも早く借金は返済するに限る。
「大丈夫。何かあっても、それは全て私の責任でメイソンさんは何も悪くないですから、話だけ聞いていて下さい」
そう言ってメイソンさんを宥める。
考えて見ればメイソンさんはまだ15歳にはなっていない14歳の少年だ。
つまり、日本で言う所の中学3年生だ。
大の大人、それも商業ギルドのボスに責任を追求されて怖くなるのも当然と言えば当然。
私は前世の記憶もあるから気にもしないが、見た目は小学校5年生だから、傍から見たら小学生が中学生のお兄さんを諭している図となる。
うん、おかしい。
けど、気にしない。
気にしたら負けだ。
そんな私達のやり取を見ていたギルド長が突然笑い出す。
「初見でも思ったが、なかなか気の強い子供だ」
豪快に笑われている辺り、褒められてはいないと思う。
けど、ここで笑いが出ると言う事は案外深刻な問題で呼ばれたのでもないのかもしれない。
打算的に計算して心にも余裕が出来る。
「ありがとうございます。お褒めの言葉と受け取っておきます。それと、ドンさんも今日はご足労いただき申し訳ございません。後で出張旅費の精算もしますね」
そう言ってから、観念したメイソンさんを連れてソファーに座る。
「で、ワザワザお呼びになった件をお聞きしても良いでしょうか?ドンさんも暇ではないと思いますので」
つけいる隙もなく要件を聞くと、ギルド長は数通の手紙をテーブルの上に置いた。
「私が見ても?」
「ああ、その為に呼んだ」
手紙を出して内容を確認すると、それは貴族からの抗議の手紙だった。
我が商会が不当に農家を抱き込み、自分達との取引を断って来ている、ギルドから商会に圧を掛けて欲しいとの内容だ。
「えっと、決して独占契約をした訳ではありません。商品の金額についても適正価格で取引していますし、他に売らないように言っている訳でもない。何も問題ないのではないでしょうか?正直これって言いがかりですよね」
一応一般論でハナシテみる。
正直、前世日本人の私としては無料で相談や指導をして貰って他所に品物を売るかと聞かれると、そこまで人情の無い人間ではない。
きっと、私だったら商会へ売るだろう。
「その話は私もドンさんから聞いた。貴族たちは大量に購入する代わりに代金を負けさせたり、支払いも後日とツケ払いをして1ヶ月も払わなかったりと、農家の生活が苦しい状況である事。また、大量の注文をしてドタキャンする事もしばしば、けど、市場に売りに行くのも遠くて大変な農家は、悪条件でも貴族と取引をしなければならなかった事。商業ギルドを長年運営してきたが、農家の話を直に聞く事はなかった。それは私の落ち度でもある」
それはそうだ。
商業ギルドはあくまでも商業ギルド。
商いをして初めて加入する組織だ。
一農家が加盟しているなんて聞いた事もない。
「ギルド長は何も悪くないと思います。これは本来ならその土地を治める領主や国がなんとかしなくてはいけない事です。けど、そのなんとかしなければならない貴族が自分の責務を無視して農民から搾取していたんです。今回、このように取り組んだのは、そんな搾取されるだけの農家ではなく、共により良い生産物を作って生き甲斐を持って行ける農業作りと、農家の人達が孤立しない人脈作りの為に、このようなシステムを作りました。その為にドンさんには相談役とお世話役を頼んだのです。勿論、それに対する賃金は我が商会が担います」
「無償で技術を提供し、その運用費は全て負担すると?損にしかならないだろう」
ギルド長の言う事はもっとも、けど、経営は利益だけが全てではない。
「より良い作物を作るのは一朝一夕で出来る事ではありません。それに、人と人は共に支え合ってこそ成長して行けるのです。例え我が商会に損失になるだけと思われるでしょうが、それによってより良い作物が育てられるなら、それは我が商会が更に発展する為にも必要な経費なんです」
そこまで話すと商業ギルド長は何故か拍手をし始めた。
「素晴らしい。そう思いませんか?行政官殿」
「えっ?!」
お読み頂きありがとうございます。
また、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。この場で感謝させていただきます。本当にありがとうございます。
また、読んで頂けたら幸いです。
追伸、執筆のモチベーションアップのため高評価頂けたら嬉しいです。今後も宜しくお願い致します。




