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加護持ち

「と、兎に角何かでバリケードを作らなきゃ」


私は書斎にある本棚や机等で窓の所と扉の所へバリケードを作った。


重いものは「軽くなれ」と魔術をかけて動かす。


先程の本に岩を持ち上げる話があり、早速応用させてもらった。


が、こんな抵抗に何の意味があるのか?


外には屋敷を照らすように兵士が並んでおり、屋敷には先程アレックスを先頭に数名の兵士が入って来ている。


部屋数も少ないこの屋敷では、直ぐに書斎へと辿り着くだろう。


案の定数十分後には書斎の扉を壊そうとドンドンと音を立てて何かで扉をこじ開けている。


「観念して出て来いルワールの王女よ」


アレックスが声高に私を呼ぶ。

「お前の悪行はこの国にも聞こえて来ている。残忍なルワールの王族がその罪、ここで払ってもらおう」


意味が分からない。

私が何をしたと言うのか。


震えながら部屋の中央で先程読んでいた本を抱き上げた。


既にオンボロの扉は半分以上が削られており、夫であるアレックスの顔が見える。


「私、何もしていない」


震えながら抗議すると、アレックスは如何にも醜い物を見るような目で私を見た。


「魔術の才能の無い王女は魔術の才能のある赤子を食べて魔力を得ようとしているらしいじゃないか。残忍なルワールだけの事はあるな」


「は?何をでたらめな事を」


「加護持ちにでもなろうと思ったのか?残念だな、加護持ちとは魂の高潔さだ。そんなあさましい女になど宿るものではない」


鼻で笑うようにそう言い放つアレックス。

「そんな事、した事もない、嘘よ」

身に覚えのない罪。

それも、倫理に反する内容に気分も悪くなる。


「そんなに加護持ちなりたいか?」

アレックスは更に私を嘲る。


「今夜がお前と夫婦である最後の夜。そんなに加護持ちになりたければ、その加護の力でお前の罪ごと燃やしてやる。お前みたいな残忍な女と一日でも夫婦だった事は俺にとって最大の汚点だ」


激昂しているアレックスには何を言っても意味がないと悟る。

アレックスは燃えるような眼差しでこちらを睨みつけると獄炎の呪文を放った。


足元に広がる青い炎。


怖さのあまり水の魔術で自身を覆う。


けど、魔力量がもともとそんなにない私は直ぐに青い炎に全身を覆われた。


落ちて来る材木の中、私は今生での死を覚悟した。


本当なら結婚初夜。


まだお互いに子供だけども、夫婦になったのだから仲良くお話をしようなんて思っていた自分が馬鹿みたいで涙が溢れて来た。


「安心しろ、直ぐにルワールの王族もお前の後を追うだろう」


アレックスの声が冷徹に響く。


「お兄様」


一瞬、先程まで一緒にいた兄を思い出す。


接点もなく、仲も良くはなかった兄だが、それでも今日は妹として接してくれた。


瓦礫が崩れる中、去って行くアレックス達。


お兄様に手出しはさせない。


ポタポタと涙が本を濡らす。


シンと静寂が流れ、先程までの熱さが感じられなくなる。


ああ、もう死ぬんだ。


そう思った時、兄だけは無事に祖国に帰って欲しいと願った。


「私の幸せを願ってくれた数少ない同胞。どうか無事に国へ帰れますように」


最後に願う内容に自分でも驚いてしまう。


生きたいでも、アレックスを恨むでもなく、最後の最後に思ったのが、他の人の無事だなんて。


『本当にそれで良いの?』


「ええ、自分のせいで誰かが不幸になるなんて嫌」


『君、死んでしまうよ』


「分かっている。けど、それでも他の人が不幸になるのは見たくない」


『変わっているね。でも嫌いじゃないな、ねぇそうだろう姉さん』


パァーッと光が自身を包み深い眠りへと落ちて行く。


『そうね。愛しい人間の子よ』

お読み頂きありがとうございます。

本日2話投稿いたしました。

また、読んで頂けたら幸いです。

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