右手の薬の指輪
レノル公爵家の玄関ホールでジンさん夫婦とお別れを終えた私とレックスさんはそのまま外へ出た。
外では既にレノル公爵家が準備してくれた馬車が用意されている。
レックスさんが先に馬車の扉を開くと私に手を差し伸べて来た。
「今くらいは俺にエスコートさせて欲しい」
なかなか手を差し出さない私に困ったような顔でレックスさんはそう申し出た。
エスコート・・・そう言えば、貴族のマナーでそう言う事もあったように思う。
この場合の私の行動として正しいのはレックスさんの手に私の手を乗せることだ。
正直に言えば恋人同士でもないのに小っ恥ずかしい行為をいとも当たり前のようにする貴族の紳士も淑女もメンタル強いと思う。
まぁ、私とレックスさんはまだ子供なのでお友達と手を繋ぐ延長で楽勝なのだろうが、微妙に精神年齢の高い私はちょっとだけ戸惑ってしまった。
決して、レックスさんの手に触れるのが嫌だとかそう言うのではない。
私はレックスさんの手に自身の手を乗せるとそのまま馬車の中へと誘導される。
エスコートとは相手の人間を誘導するための手段なんだと納得すると、先程までの恥ずかしい気持ちが軽く静まる。
馬車の中に入ると私を後側に、レックスさんは御者さんの側の手前側に座った。
二人共椅子に座るとレックスさんがガラス越しに御者さんに出発の合図を送る。
すると、馬車は静かに走り出した。
走り出して少しするとレックスさんが右手の手袋を外すと薬指にはめてあった指輪を私にそっと差し出して来た。
「これはエトラとの友情の証に俺が持っているこの指輪をエトラに身につけていて欲しいんだ」
それは血のようなルビーの填められている指輪だ。
「この国の貴族の習わしで、左手の薬指には結婚指輪を、右手の薬指には生涯の友との絆をというのがある。これはそういう意味での指輪なんだ。是非エトラに俺との友情を込めて受け取って欲しい」
何故か切実にそう頼んで来るレックスさんに思わず頷く。
私の反応にレックスさんはホッとしたような顔になると私の右手を取り、そっと薬指に指輪を填めてくれる。
「俺たちの友情が永遠であるように」
レックスさんはそう言うと、私の右手に填めた指輪をそっと撫でた。
間近で見たその指輪は前世で言うところのピジョンブラッドルビー。
めちゃくちゃお高いのでは?
これって、貰っても良い物だろうか?
そんな事を考えているとレックスさんが困ったように微笑む。
「もしかして、嫌だったか?」
何だろう、その捨てられた子犬のような顔は。
「いえ、嫌ではないです。ありがとうございます」
こんな顔を見て「いりません」とは言えず。
「この次私からも何かお返しのものを送らせてくださいね」
と、貰ってばかりもいられないとそう提案する。
この宝石の代価に見合う物は難しいだろうが、ただで貰うの気がひける。
そんな私の対応にレックスさんが嬉しそうに微笑んだ。
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