香辛料のための布石
朝の礼拝を済ませると、私とレックスさんはジンさん夫婦と朝食を共にしていた。
趣のあるサロンの中央に黒檀のテーブルが設置されており、そこに隙間なく並べられた食事たち。
「好みが分からなかったから色々作らせた。エトラの店の味とまではいかないが、それを参考に料理させている。好きな物を食べてくれ」
出された料理は肉や魚をふんだんに使ったフルコースもビックリな位の量だ。
「味付けはエトラのレストランの土産で買える調味料を使わせている。料理の味が良くなったと屋敷中から評判だ。もし、良ければあの調味料をもっと幅広く普及させるつもりはないか?」
商魂逞しいジンさんのお誘いだが、何せ、あの調味料に使っている材料の一部は神様達の農場で作っている物だ。
まだ、普通の土地での栽培は軌道に乗っていない。
多分、気候とか土壌とか、まだ改善しなくてはいけない所があるのだろう。
「有り難いお話ですが、材料の調達が難しい食材も使用しておりまして、それほど多くを流通させる事が難しいのです」
それに、売れ残りが多くなると、処分するのも勿体ないですし、ね。
「では、受注生産と言うのはどうだろう。注文を貰ってからそこへ配送する。勿論、その分の費用も上乗せにして、日数もそれなりに貰えれば悪い話ではないのではないか?」
更にそう提案するジンさん。
確かに、受注生産なら無駄はないだろう。
ある程度の日数を貰えれば効率良く荷物を運べるだろうし。
ただなぁ、もっと効率良く出来ないだろうか?
「じゃあ、注文の期日を決めて、いつの発注になると文言を謳うのはどう?そうすれば、何度も配送する必要もないし、まとめて注文するのではないかしら?」
ユリアさんが軽く手を叩きながらそう提案してくれた。
「確かにそうすれば一度に複数件分の注文を同時に受ける事が出来るし、何より効率が良い。取り敢えず、大口になるだろう王侯貴族や飲食店を経営者する商人等に声をかけてみるか。実を言うと何人かから問い合わせが来ていてな」
ジンさんはそう言うと優しく微笑んだ。
きっと、今日の料理はその事を言うための布石だったのだろう。
「キリさんにある程度の采配はお願いしていますので、連絡しておきますね。注文がまとまりましたらキリさんへご連絡頂けたらと思います」
今からヤマタノオロチとの対戦になるから、無事に戻れるかも分からない。
キリさんには香辛料のレシピを渡しているし、いざとなったら息子のルアン君もいるし、何とかなるでしょう。
私はそう一人納得すると、早速朝食の料理に手を伸ばした。
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