悩むくらいならやっておけ
あの後、本当なら直ぐにでも出発したかったが、邪心の呪いを解除するために使った神力が思った以上に消耗していたようで、ジンさんの屋敷で一晩泊めて貰う事になった。
そして、通されたのはミリアが使う事になっていた部屋だ。
調度品は白と水色を基調にした物でとても落ち着いた感じで、ちょっと乙女チックな感じの部屋だ。
次期公爵夫人の部屋と言う感じではない。
「あの、この部屋は」
私を案内してくれたユリアさんに恐る恐る問い掛ける。
「貴女に会った次の日にジンが揃えたそうなのよ」
あのジンさんがこんな乙女チックな部屋を作るとは。
「ここだけの話、ジンは娘が欲しかったのよ、でも、ほら私10年もの間寝ていたでしょう。諦めていた娘が出来たと喜んで部屋を用意したらしいの」
ユリアさんは確かに10年の時をベッドの上で過ごしていた。
けど、それは時止めの魔術によってユリアさん自身の時間を止めた状態でだ。
「お母様はまだ若いですので、今からでも娘さん大丈夫だと思いますよ」
前世の世界では晩婚も多く、40代で初産も良く聞いた話だ。
ユリアさんはその点対外的には30代半ばだが、実際は20代半ばの体なのだ。
十分に若い。
「そうかしら、息子もジンも歳をとってしまったから、私も知らない内に気持ちが老け込んでしまっていたみたいね」
ユリアさんはそう言うとちょっと考えるような仕草をする。
「私の故郷にこんな言葉があります
『悩むくらいならやっておけ』って」
「それは、どう言う意味なの?」
「悩むくらいならやった方が後悔しないと言う意味かと思います。後からあの時こうしていれば良かったと思う事はずっと後悔するんだそうです。ですので、同じ後悔ならあの時失敗したなぁと思う方にしておいた方が良いらしいです。やらなかった後悔より、もしかしたら、やって失敗した後悔の方が後悔が少ないと言う意味かもしれません」
前世の父が良く言っていた言葉だ。
やらないでクヨクヨするよりやってクヨクヨしろと。
もしかしたら、父は何かやらない事に後悔していたのかもしれない。
私の言葉にユリアさんは目を大きく見開く。
「そうね、そうよね」
と、何かを納得するように言葉を紡ぎ出した。
「はい。少なくとも私はそうやって今まで生きて来ました」
迷った時は前に進めと、自分を叱咤して今の自分がある。
色々あったけど、今の自分がいない未来なんて考えられない。
「なんだか勇気を貰ったわね。ありがとうミリア」
ユリアさんはそう言うと清々しい笑顔で私を見た。
お読み頂きありがとうございます。
ちょっと父が生前良く言っていた言葉を引用しました。
また、読んで頂けたら幸いです。




