節約は必要か
応接室には中央にローテーブル、それを挟んで1人掛けのソファーが向かい合うように四脚置いてあった。
ファルマさんにそのまま案内された私とレックスさんはそのままソファーに座るように促される。
「ありがとうございます」
会釈してソファーに腰を下ろすとその座り心地にうっとりする。
何せ、先程までお尻の苦行を受けていた身としては、この硬過ぎず柔らか過ぎない丁度良い座り心地にホッと一息をつく。
これで硬い椅子を勧められていたらきっと私のお尻はストライキを起こしていただろう。
「今お飲み物をお持ち致します」
ファルマさんはそう言うと応接室を後にした。
ファルマさんが出た後に応接室を見渡せば色々な飾り棚が並んでおり、それのどれをとっても可愛らしいとしか言いようがない。
レンジさんの好みと言うよりは多分奥さんの好みなのだろう。
可愛い柄のティーカップソーサーが並んでいる。
どれも一点物のようで、それぞれ違った花をモチーフに描かれていた。
「あれはラトー工房で作られている物で、前国王時代に王室で年に一度行われていた王妃主催の春の茶会の引き出物だよ」
私がマジマジと茶器を見ていたからか、レックスさんが説明してくれる。
「ラトー工房は全て手作業で陶器に着色をする生産方法にこだわった工房で、まったく同じ柄はないと言われている所だ。故に、値段もそれなりにしており、付加価値も付く。挙げ句、王家御用達なので、あのティーカップとソーサーで高官の1ヶ月分の給与に相当するらしい」
レックスさんはそこで小声で「多分」と付け足す。
「ただ、それは前国王時代だ。今は既製品に印を付けるだけの品で価値は下がってしまった」
残念そうに説明するレックスさん。
きっと、前国王夫妻に思い入れがあるのだろう。
国の財政としては、幾らでも安くなるのは良いことだと思うが、付加価値のある物で相手にもてなされていると感じる貴族も多いはず。
結婚式の引き出物に重点を置く新郎新婦も多い。
「お祝いの品は、お祝い事の大きさを表しますからね。多少の見栄は必要ですかね」
良く見せ金とか言って裕福アピールをするのだ。
人を動かす時に必要なことでもある。
「前王妃様が良く言われていたのは、幸せを分かち合うのに節約をするものではない、そんな事をしたら幸せも節約されてしまう、と言うものでした」
レックスさんの言葉に何かがストンと心に落ちた。
「そうですね、何故忘れていたんだろう。大切なことだったのに」
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