レノル領へ
「よう、エトラ。なかなか面白いことになっているではないか」
楽しそうに私をからかうララーさん。
「共に旅をして来たレックスとやらと夫婦ごっこをし、次はどんな事をするつもりじゃ」
笑い交じりにララーさんは私に問い掛ける。
「レックスさんに夫役をやらせてしまったのには深い事情があるんです。それに私の本来の夫とレックスさんは違うのであまりからかわないでください。それに、彼はとても真面目で頼りになるお兄さん的存在なんですから」
勿論、これは精神世界での対話なので隣に居るレックスさんには聞こえていない。
神様との会話は基本的に精神世界での会話なのだ。
直接会話をする為には神降ろしとか憑依とかする必要がある。
「お主、本気で言っておるのか?」
心底不思議そうに問い掛けるララーさん。
「本気ですよ。間違っても冗談で言ってません」
そう断言してやると
「不憫よのう」
と何故かレックスさんの方を見て言った。
「まぁ、良いわ。で、我に何用か?」
何時ものララーさんなら大抵の事を見ていたかのように分かるのに、今日は珍しく問い掛けて来る。
「すまんのう、ちぃーとばかりこの土地は電波が悪くてのぉ、そちのいた国の言葉を借りればラグいかのぉ」
「はぁ、ラグいですか?」
「我らは基本的に、望めば世界の今を見る事が可能。じゃが、ここは電波が悪くてのぉ、我の力も制限されると言う話じゃ。今は依代を中継に対話出来ておる。して用向きを聞こうではないか。主がただ単に我と話をしたかっただけと言うことはなかろう」
勿論、友達に電話する感覚でララーさんを呼んだ訳では無い。
「勿論です。私達がレノル領に転移するのに助力をお願いしたいです」
「レノル領とな」
「はい。レンジさんの奥様を助けに行きたいです」
「ヤマタノオロチ討伐の助っ人に誘いに行くのではなく?」
「勿論、助っ人してくれるなら嬉しいですが、それはあくまでも建前です。あの奥さん思いのレンジさんの奥さんを助けられるのなら助けに行きたい。その気持ちの方が上です」
「ハッハハハハハ」
ララーさんは楽しそうに笑う。
「お主は何一つ変わらないなぁ。懐に入れた者の幸せを願う気持ち。だから我も力を貸したくなるのじゃ」
主は死ぬかもしれぬ時も他人を心配しておった。
ララーさんは慈しむように私を見た。
「よし、力を貸そう。目を瞑り頭にレノル領を思い出すのじゃ」
ララーさんの言葉通りに私は目を瞑りレノルのあの神殿を思い出す。
私とレックスさんを光が包んだと思った瞬間、思い描いていて神殿に転移していた。
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