先見に違和感
「貴女は本当に強い人ですね」
ジョシュアは眩しそうに私を見た。
「僕は先見の結果を変えたいと思って行動した事があります」
少しお茶を飲んで落ち着いたジョシュアが躊躇うように話し出した。
「僕の乳母が怪我をする先見をした時にその事故を回避しようとしました。乳母は僕の未来回避の行動で怪我をせずに済みましたが、代わりに邸の侍女が怪我をしてしまいました。そんな事が何回も続いて、今回も本来なら生贄になる僕が死ぬ運命なのに、それを違う女の子が肩代わりするんだと思ったら夜も眠れなくて、僕の未来回避の為に貴女が死ぬんだと思うと、僕は自分で自分を責めずにはいられない。きっと僕は貴女の犠牲を一生抱えて、いつかその罪の重さに耐えられなくなると思うんです。ならいっそのこと僕が死んだ方がマシだと」
震えながら話すジョシュア。
きっと彼は今までもそうやって災難に見舞われる人を助けては、別の人が変わりにその災難に合った事に罪悪感を覚えて来たのだろう。
「ジョシュアさんがその先見で見た運命は全て変えられなかったのですか?」
私の問い掛けにジョシュアはフルフルと頭を振った。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たるって言うし、一つ位は回避したものがあると思って聞いた甲斐がある。
「僕の先見ではミリア様は結婚後、夫であるアレックス様を殺そうと邸に火を点け、誤って焼け死んでしまってました。また、それが理由で両国は戦争になり、その戦いでアンドリュー先生は両足を失って王家から消えてしまっていました」
とても言い辛そうに話すジョシュア。
「でも、私は生きていますし、アンドリューお兄様も五体満足でこの場にいます」
「はい、その通りです。けど、先見の未来を変えるとその矛先が違う悲劇を生んでいたので、だから」
だから生贄になろうと思ったのか。
「ジョシュアさん、先程も言いましたが未来は自分の手で勝ち取るものです。運命だからと諦めるなんてナンセンスです」
「ナンセンスですか?」
ジョシュアはキョトンとした顔で私を見る。
「そうです。ばかげた事って意味です」
私はそう言うとジョシュアの手を取る。
「私は運命だからと諦めない。一緒に足掻こうじゃないですか」
どうも諦めるとか、そう言うのは自分の性に合わない。
「それにですね。ジョシュアさんは何か勘違いされていますよ」
私の言葉に俯きかげんだったジョシュアの顔が上を向く。
「私は生贄になるためにこの国へ来た訳ではありません」
力強くジョシュアの瞳をジッと見る。
「私はヤマタノオロチに印籠を突きつけるために行くんです」
どうだ、決まったよね。
ポカーンと私を見るジョシュアとアンドリューお兄様。
「ミリア、印籠ってなんだ?」
今まで静観していたアンドリューお兄様が聞いたことがないと言うように問い掛けて来た。
そうか、この世界に水戸黄門はないよね。
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