アンドリューお兄様とホットミルク
食後にアンドリューお兄様と二人、書斎にある応接セットの所で談話していた。
テーブルの上には果物と焼き菓子、そしてホットミルクが置かれている。
「ミリアの結婚式の後に国へ戻ろうと国境の町を目指していた時に奇襲に合ったのだが、不思議な光に包まれたと思ったら国境の町の前にいたんだ。お陰で不要な戦闘にならなくて済んだが、その後からマルセタと小さな小競り合いが何度かあったが幸いにも死人は出ていない」
アンドリューお兄様はそう言うと「フッ」と笑う。
「そろそろホットミルクを飲んで大丈夫だよ」
そう言ってホットミルクの入ったカップを指差す。
「ありがとう」
私はホットミルクの入ったカップを手に取ると、そっと口に運んだ。
「美味しい」
ミルクの中に広がる優しい甘み。
「ミルクに蜂蜜を入れているんだ。王家直轄の農場で作られた物だ」
アンドリューお兄様はそう言うとホットミルクを飲む。
そして、コトンとカップを置いたと思うと真顔で
「所で、アレックスとはどうなっているんだ?」
アンドリューお兄様が言う所のアレックスとはレックスさんが今やっている役どころのミリアの夫だ。
「どうなっている、とは?」
これは何と応えるべきか。
本物のアレックスからして言えば嫌われていると思うが、そんな事を言えばアレックスの役をやっているレックスさんにご迷惑がかかる。
それに、そんな事を言ったらきっと明日の朝にはアンドリューお兄様がレックスさんを締め上げているかもしれない。
それもかなり高い確率でだ。
それは不味い。
ただでさえ護衛をして貰っていて、面倒なアレックス役も引き受けてくれた奇特な人なのに。
「至って良好ですよ。一緒に冒険したりしていますし」
嘘ではない。
けど、一緒に冒険しているのはアレックスではなくレックスさんだけど。
「それに、私の仕事にも理解がありますし」
自転車の件では良い理解者だと思う。
結構馬が合うと思うんだよね。
「何より、何時も気を使ってくれて」
雇用主と雇用者の関係だけど。
「とても優しいんです」
何時も私に合わせてくれているからね。
まぁ、振り回していると言われれば、それまでか。
私の言葉にアンドリューお兄様は目を丸くする。
「思っていたより仲が良いんだね。彼とは」
そう言って目を細めた。
「そうですね。言われて見ればその通りです。至って良好です」
「ハハハハハ、至ってか。その言葉、2回言ったぞ」
アンドリューお兄様は可笑しそうに笑う。
薄っすらと涙が出ているのは、ちょっと心外だ。
そんなにおかしい事だろうか?
「お兄様はちょっと意地悪です」
そう言ってむくれて見せるとアンドリューお兄様は破顔した。
「お前が幸せなら、それで良い」
そう言うと私の頭をガシガシと撫でた。
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