第三王子アンドリュー
淡い金髪に翡翠の瞳。
「お兄様?」
馬車の扉の前で立ち止まる私の元に、兄であり第三王子のアンドリューが駆け寄る。
「おかえりミリア」
アンドリューお兄様はそう言って私を抱きかかえた。
「大きくなったね」
屈託なく笑うアンドリューお兄様に、何故かホッとする。
「ただいま、お兄様」
ミリアとしての記憶はそれ程多くはない。
断片的に残る微かな記憶の中で第三王子アンドリューは度々出て来た。
私にあまり人の来ない図書室を教えてくれたのもアンドリューお兄様だった。
そこで時折会っていた。
特に約束をした訳ではないが、会うと何時もお菓子をくれて、少しだけ会話をしたのを覚えている。
「今日は色々なデザートを用意しておいたから沢山食べて私にこれまでの話をいっぱいして欲しい」
アンドリューお兄様はそう言うと私を地面に上にそっと降ろしてくれた。
「はい、お兄様」
何と言うのが正しいのか、ただ、この人だけが兄呼びを許してくれていた。
他の兄弟達は7歳の儀式の後に手のひらを返したような対応だった事を覚えている。
「まずは中に入ってくれ。そちらのお連れも」
アンドリューお兄様はレックスさんを見ると目を細める。
「さて、殿下もそう言っているから中に入ろう」
ゼバスさんがモリーさんとレックスさんの背中を押す。
私はアンドリューお兄様に手を引かれるように建物の中に入って行った。
建物は本当にこじんまりしており、王族が過ごす建物とはとても思えない物だ。
「ここは私の母の持ち物なんだよ。王家に嫁ぐ前に住んでいた家で、それを修繕しながら使っているんだ」
アンドリューお兄様はどこか懐かしそうに扉に触れる。
「開けてくれ」
アンドリューお兄様がそう言うと近くに控えていた侍従が扉を開いた。
第三王子の母親は伯爵家の出で、だいぶ前に亡くなられている。
第二王女も産んでおり、第二王女は私が7歳になる前に嫁がれている。
顔はうろ覚えだが、アンドリューお兄様に似ていたように思う。
「殿下、デザートも良いですが、食事を先に摂らせて下さい」
ゼバスさんがお腹を撫でながらそう進言する。
「それは失念していた。では、先ずは食事にしよう。デザートはその後だ」
アンドリューお兄様はそう言うと私の頭を撫でる。
「ミリアはもう少し太った方が良いからな」
そう言って屈託なく笑う。
アンドリューお兄様が笑う姿は初めて見たように思う。
あれ、本当に初めてかしら?
何処かで見たように思う。
なんだろう、この違和感は・・・。
本年もお読みいただきありがとうございます。また読んで頂けたら幸いです。
皆様に幸多からんことを、来年は良い年でありますよう。




