待っていたのは
クッションを手に入れた私は、なんとか馬車に適応していた。
と、言えたのも最初の3日間だけ。
だんだんと私の重みでペタンコになってきたクッションから再びおしりに振動が伝わってきたからだ。
「王都まで後どれくらいかかりますか?」
向かいに座るモリーさんに問い掛ける。
「そうですね。後2日とかかりません」
モリーさんはそう言うと手に持っていた本を閉じる。
「ミリア様、その話題は本日10回目になります」
ため息と共にそう言うとモリーさんは横に本を置き、カゴの中から飴を私に寄越す。
「手持ちぶたさでしたらこれでも舐めていてください」
「モリーさん、今日飴を7個も頂きました。これ以上はきっと太ります」
私がそう言うとモリーさんは再びため息を吐く。
「そうは言いますが、ミリア様は馬車の中で本を読むと酔われるし、飴もいらないと言われる。私にどうしろと?」
モリーさんはそう言うと私の顔を覗き込む。
「後1時間もしない内に次の町に着きます」
モリーさんはそう言うとクスリと笑った。
私は「モリーさん」と少し膨れて言うと、モリーさんは可笑しそうに笑った。
少なくとも、最近はこんな馬鹿な話も出来るくらいには仲良くなっている。
「次の町で人に会う約束になっています。ミリア様が良く知った方ですよ」
モリーさんはそう言いながら私に飲み物を差し出す。
飲み物はレモンを入れた果実水だ。
「私の知っている人ですか?」
ミリアとして親しくした人間は限られている。
「ええ、そうです。良く知っているお方ですよ」
モリーさんはそう言いながらマドレーヌを私に差し出して来る。
「少し忙しくなると思いますので腹ごしらえしていた方が良いですよ」
私はモリーさんからマドレーヌを受け取るとパクリと食べた。
「美味しいです。モリーさんも食べてください」
モリーさんは「フフフ」と笑ってマドレーヌを食べた。
1時間の時間はあっという間に過ぎる。
町はそれほど大きくないが、町並みはどちらかと言うとお洒落な感じで、何処となく洗礼された感じを受ける。
並ぶ家もこじんまりしているけど、とても品があり住人の裕福さが見える。
馬車はその住宅の内の一つに入って行く。
レンガ造りの可愛い家だ。
馬車が正面玄関に横付けする。
「どうぞ、ミリア様」
ゼバスさんがそう声を掛けて馬車の扉を開けた。
開かれた先には出迎える為に並ぶ使用人達。
「お帰り、ミリア」
使用人達の中央からそう声を掛けて私の方へと歩いて来る男性がいた。
一瞬、足があって良かったと思った。
何故そう思ったのか。
「また会えた事、嬉しく思うよ」
お読みいただきありがとうございます。また読んで頂けたら幸いです。




