レックスさんは男としてはまだまだですね
神殿から戻り部屋へと向かおうと宿屋の中を颯爽と歩いていると、丁度朝の鍛錬を終えたレックスさんと宿屋のロビーで出会す。
「エトラ」
階段を登ろうと脇目も振らずにロビーを横切り階段を目の前にした時に、後ろからレックスさんが呼び止めたのだ。
私は振り返り、慌てて辺りを見渡す。
どうやら誰もいないようだ。
「ホッ」と息をつくと早足でレックスさんの所へと歩み寄り「今はミリアでしょう」と釘を刺す。
どこで誰が聞いているか分からないのだ。
いつ敵が私達のお芝居に気付くとも知れない。
まぁ、実際は私は本物のミリアだから良いのだけどね。
けど、変な誤解は減らした方が良いのは世の理だ。
下手な誤解を放っておくとろくな事がないからだ。
まぁ、レックスさんがミリアの本当の旦那でない事はバレたら不味いけど。
「すまない。ついうっかりしていた」
レックスさんはすまなそうに眉尻を下げる。
なんか、飼い犬が主人に怒られたような素振りに私は笑いがこぼれた。
「気にしていないですよ。旦那様」
意趣返しのつもりでレックスさんをからかうと、レックスさんは顔を真っ赤にさせる。
なんて初々しいのだろうか。
前世一応成人していた自分からしたら、中学生位のレックスさんをからかうのはとても新鮮なものがあった。
何時も飄々としてたレックスさんでもこんな一面もあるんだ、と、変なオバさん心が湧き立つ。
「ご、ごはん。朝ご飯がまだだと思って」
レックスさんは顔を赤くしながらそう言う。
「もしかして、私と一緒に朝ご飯を食べようと待っていたんですか?」
今は8時30分になろうと言う時間だ。
決して朝ご飯を食べる時間にしたら遅いと言う訳ではないが、レックスさんは5時には起きて鍛錬をしているのだ。
朝食の時間にしたら遅い部類になる。
ここの朝食は7時から出されているからだ。
勿論、7時前に神殿に行った私も朝食は食べていない。
「何時食べても同じ一回だ。別に良いだろう」
またもや顔を赤くして言うレックスさん。
なんだろう、めちゃくちゃ可愛いって思えてしまう。
「フフフ、良いですよ。朝ご飯を食べましょう」
色々考える事が多くてご飯の事なんか頭になかった。
けど、糖分が足り無い頭では良い案なんて考えられないよね。
私はレックスさんの腕を掴み「エスコートしてくださいね」
と、あえてレックスさんをからかうように言うと、案の定レックスさんは固まってしまった。
どうやらレックスさんは冒険者としては一流だが、男としてはまだまだのようだ。
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