旦那さんの事情
「儂は元々はここの領主でカーター伯爵と呼ばれておったんだ。が、エトラが産まれて間もなく雨が降らない年があってな、その年は凶作で国に納める税が足りなくなってしまったのだ。何度か国に直訴して税収を減らすよう申請したのだが、聞き入れてはもらえなんだ」
凶作なら税を軽くする措置がとられるはず。
なのにそれを拒否するのはどこかおかしい。
「実は、その前の年にここの港を整備し初めたばかりで多額の費用がかかり。その半分を国が助成してくれたんだ」
公共事業を国が助成するのは良く聞く話だ。
「当時の宰相にその事を言われ、その年の税の免責は有り得ないと拒否させたんだ」
それとこれは違うんじゃないかなぁ。
助成金はあくまでも助成金だし。
災害時の対応は別だと思う。
「10年前の宰相って今の国王陛下ですよね。前の陛下の弟で、王子達がまだ幼いと言う理由で代理で王座に着いたと聞きました」
メイソンさんが師匠の所で聞いてきたと話を補足してくれる。
「あぁ、そうなんだ。今にして思えば当時の儂を目の敵にしている節もあったんじゃが、あの時は人のそういった機微に疎くてな。だから、宰相から王宮へ出入りしている商人を紹介されて、不足の税収を稼げる儲け話があるとそそのかされ、まんまと鉱山を一つ買ってしもうた。そこが魔獣の住処になっていると気付いた時には、全ての財産を取られてしまった後だったんじゃよ」
それって宰相が悪いよね。
完全に騙されているんじゃない。
「納める税金も無く、私は貴族裁判に掛けられ、そこで領地と儂の名を奪われてしまったんじゃ」
名前を剥奪されるのは、平民にされるより厳しい判決だ。
また、その措置は伯爵本人だけで、家族は貴族籍のままだと言う。
旦那さんが名前を取り戻す為には、その年に納められなかった税金と、その年の税収を流失させ貴族の責務を果たせなかった違約金として10年分の税金を納めなければならないらしい。
息子夫婦が取り戻そうとしていたのは、お父さんの名誉だったんだ。
現国王、悪ど過ぎじゃない?
何が気にいらなかったの?
もしかしたら、この港が王都より発達するのを恐れたのかもしれない。
今は王家預かりとなっているこの町の収益が王家を潤していると思うと反吐が出る。
「お祖父様のお名前は、孫である私が必ず買い戻します。だからお祖父様が今まで大切に守ってきたこのお店を私に下さい」
私は旦那さんの手を握り真剣に申し出る。
「何年かかるか分からないけど、お祖父様の名誉は必ず取り戻します」
前世の知識をフル活動させてでも。
それにしても旦那さんの話からして、今の国王怪しくないだろうか?
元々旦那さんを嵌めたのは今の国王で、兄王が亡くなって代理の国王とかって上手いことやらかして、挙げ句ルワールとの開戦も今の国王が考えたんだよね。
何か裏があると思ったほうが良いと思うんだ。
それに、私がマルセタ国の公爵家へ嫁いだのだって、国王が裏で糸を引いているとなれば話が通じる。
だって、あの結婚式は罠だったんだから。
加護もない無能な王女を加護持ちの公爵令息と結婚させるなんて、上からの命令感半端ないよ。
取り敢えず、最初の目標は旦那さんの名誉を買い戻す事。
その為にも商会の設立は急がねば。
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