レックスさんが甲斐甲斐しい
その日、レックスさんとメイドさん、そして刺客の皆様達をシルバー辺境伯と共に回収した私たちは、シルバー辺境伯の計らいで領主の城へと厄介になっていた。
色々な料理が並ぶ中、私とレックスさんはシルバー辺境伯の隣で食事を摂っている。
レックスさんは貴族のマナーを嗜んでいるみたいで、とても優雅に食事をする。
が、私はと言うと何処かぎこちない感じで食事を開始していた。
だって、よく考えてみてください。
貴族の食事マナーなんてなんとなく記憶にある程度。
それも付け焼き刃の記憶にかろうじてある程度なのだ。
確か、カトラリーは外側から順番に取って食べるんですよね?と思いながら、私はカトラリーとにらめっこをしていた。
すると、レックスさんが私にそっと食事のマナーを隣から教えてくれる。
「次はこれとこれを使うんですよ」とこっそりと教えてくれる。
そして並べられた料理をまるで手本でも見せるかのようにフォークとナイフを使って切り分けて見せる。
なるほど。
こうやってやるのか。
レックスさんを手本に食事を再開。
言わせて欲しい。
お肉めちゃくちゃ美味しいです。
もう舌が落ちるくらいです。
味付けが塩だけと単調でも素材が良いので、そこがまた良いのかもしれない。
安いお肉がいろんな味付けをして美味しく食べていたことを思い出す。
別に庶民のひがみではない。
決してそうではない。
何でも料理次第で素材は生きるし、死にもする。
美味しく贅沢な肉を頬張っていると、シルバー辺境伯は私たちの方を見てまたなぜ目頭を抑えている。
きっとまた変な勘違いをしているに違いない。
多分、私が貴族のマナーを知らないところを見て、貧しい生活をしていたんではないだろうかと思っているのではないだろうか。
いや、決してそうではない。
確かにおじい様たちは元貴族で平民のような暮らしをしていたけど、お腹いっぱい食べれたし、私は満足いく食事を食べていた。
贅沢な食事が全てじゃないよ、だからそんな目で見ないでくださいシルバー辺境伯。
私は結構満足だったんですよ。そして、レックスさんは甲斐甲斐しくも私の食事の面倒を見てくれる。
まぁ、夫婦の演技をしているのだから有りと言えばありなんだけどね。
それよりも、なんだろう?この周りの生暖かい視線は。
レックスさんは更に演技をエスカレートして行く。
果物を一口大に切ると私の口に押し付けてくるのだ。
「はい、ミリア」
レックスさんは至って真面目な顔でホークに刺した果物を私の口に運ぶ。
仕方がないので食べてみた。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
されて初めて知ったのだが、こう言うのはする側よりもされる側の方が恥ずかしいと言うことだ。
けど、言わせてほしい。
レックスさんのはどちらかって言うと親鳥が小鳥に餌を運んできてるような感じだと思うんだよ。
だから、そんな目で見ないでほしい、ただでさえ恥ずかしいのに。
「はい、ミリア」
そして、再び拷問のような餌付けが追加される。
お読みいただきありがとうございました。また読んでいただけたら幸いです。