要塞都市シル
ルワールの最南端の町のシル。 そこはマルセタとルアールの国境に隣接した町と言うこともありルアールきっての要塞都市でもあった。
城壁は5mほどの高さを保持しており、その要所要素で兵士が見張りをしている。
最初に異変に気づいたのは胸壁に立つ兵士だった。
「あれは何だ⁉」
南の森から砂煙を立てながら、近づいてくる物体があった。
その速度たるや尋常ではない。
軍馬でもこれほどの速度が出せるだろうか?いや、出せない。
「新手の魔獣か?」
胸壁にいた兵士は慌ててドラを鳴らす。
「緊急事態、緊急事態」
それを聞いた他の兵士達も「緊急事態、緊急事態」と叫びだす。
領主の元へ直ぐ様伝令が飛び、城壁を守る兵士達は固唾を飲んで迫り来る物体を見ていた。
物の数分で領主ノシルバー辺境伯が転移魔術の施された魔法陣から現れる。
「何事か?」
シルバーはそう言うと、直ぐに当直していた兵士が近寄り接近中の物体を示す。
近くに控えていた魔術師がシルバーの前で呪文を唱えると、その接近している物の姿を写し出した。
「これは、ゼバス殿ではないか。キテレツな物に乗っているが、確かに後ろにいるのはゼバス殿。とても楽しそうになさっている様子も伺える」
シルバーは暫し顎に手を当て考え込む。
そして、
「警戒態勢を解除。あれは友軍の将である」
シルバー辺境伯の一声に、兵士達は安堵の息を吐く。
正直に言えばあれ程の速度で接近する魔獣と対峙し勝てる見込みは正直なかった。
ここにいる大半の兵士は思ったと言う。
今日が命日にならなくて良かったと。
シルバー辺境伯はそのまま城門まで降りると、その重い門を開いた。
南の森からこの要塞都市シルまで距離にしておよそ20キロ。
その距離を数分で詰める速さは本当に尋常ではない。
この20キロの距離はマルセタとの戦闘を考慮した距離だ。
万が一敵兵が来たとしても対処出来る距離。
それが、物の数分で駆け抜けられたらどうにもならない。
シルバー辺境伯はこの時おもったと言う。
あの乗り物が敵兵のものならば、とても太刀打ち出来ないだろうと。
故に、ゼバスを確認した時の安堵と言ったら、他の兵士の比でない。
並々ならぬ速度で近付いたその物体はシルバー辺境伯の前で急ブレーキをかけた。
バフッと砂煙がシルバー辺境伯一行にかかる。
「あれ、シルバー辺境伯どうされました?」
緊張感のない声で問われたシルバー辺境伯は盛大に咳払いをする。
勿論、貴方のせいですとは言えないまま。
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