敵襲
国境の町ランカは小高い丘の上にあり、周囲はとても見晴らしの良い草原が続いている。
距離にすると10キロ程の広大な草原だ。
ただし、自然と出来たような草原ではない。
例えるなら、何かに地面をえぐられた感じの形状と言えようか。
薄まってはいるが、何故か嫌な気配を感じる。
「ここは昔、荒神が通ったと言う謂れのある地です。ここの草原にはそれ故に花は咲きません。見渡す限り」
ゼバスさんが淡々と草原の事を説明する。
「負の魔素が強いと普通の植物は花を咲かせません。もし、この地で花が咲いていたら、それは人に有害な花ですので決して近付かないように」
駆足で走る馬の歩調に合わせて自転車を走らせる事30分。
草原もそろそろ終了と言う所でゼバスさんは馬を降りた。
「そろそろ馬を休ませようと思います。森に入り少し行った所に川がありますので、そこで少し休憩をしましょう」
ゼバスさんは馬の頭を撫でながらそう提案してくる。
勿論、この休憩は馬のための休憩である事は十分に承知している。
レックスさんも馬に乗っていただけあり、そこは納得した様子。
「ところで、ここから一番近い宿屋はどの位行った所にありますか?」
これから森に入るのだが、まさか祖国入りして直ぐに野宿は想像していなかった。
検問を出た時には既に昼時だったために、休憩を入れながら移動して、後どれ位で着くのだろう?
レックスさんと二人で旅をしていた時はそんな不安はなかった。
「そうですね、馬を走らせ30分毎に休憩を入れると、夕方には到着出来ます。シルと言う町で、一応ルワールの要塞と言われているシルバー辺境伯が納めている土地です。レックス君にはちょっと針のムシロかもしれませんが、アレックス役、宜しくお願いしますね」
ゼバスさんは珍しくニヤリと人の悪い笑みを見せた。
そのまま馬を引きながら私達は森の中へと入って行く。
勿論、自転車は麻袋の中へと収納済だ。
川のせせらぎが聞こえて来て、川が近い事を考えていた時に、突如ゼバスさんが私の方を振り返ると同時に私を突き飛ばした。
尻もちを覚悟した時に、後ろからレックスさんが支えてくれる。
「敵襲だ」
ゼバスさんがそう言うのと同時に、私とゼバスさんの間を槍が通過する。
鋭いスピードで空気を割く槍に、一瞬反応が遅れていた。
色々あり、油断していた。
ダンジョン内だけが危険なのではない。
今までダンジョン以外の場所で奇襲などなったための油断。
一瞬判断が追い付かずいると第二、第三と槍が私目掛けて襲って来る。
「ミリア様を守れ」
ゼバスさんはレックスさんとメイドさんにそう号令をかけた。
お読みいただきありがとうございます。また読んでいただけたら幸いです。




