襲撃者は旦那様?
結婚式が無事に終わり、私は屋敷へと戻る馬車の中にいた。
祖国から連れて来た使用人は一人もおらず身一つで異国の地にいる。
鬱蒼とした木々の間から見える大きなお屋敷。
どんどんと近付くその大きな屋敷が公爵家と分かるけど、途中から何故か屋敷とは違う方向へと道が逸れる。
先程までの整った道とは違い、今は獣道でも行くかのように荒れた道を走る馬車。
一時間以上走った所で馬車は停車し、外を眺めると森の中に古びた家があった。
「ほら、降りろ」
御者の男が乱暴に馬車の扉を開くと怒鳴るようにそう言った。
私はこれ以上怒鳴られるのが怖かった為に馬車から急いで降りた。
「今日からここがあんたの家らしい」
御者の男はそれだけ言うと小さな荷物のカバンを放り投げて馬車を引き帰らせた。
一人ポツンと置いて行かれた私。
加護どころか魔力さえろくにない私には相応の対応なのだろう。
私が今使える魔法は小さな火を出す事と、コップ一杯の水を出す事。
それと、そよ風を起こす事、光の玉で夜を照らす事位で、後は試したことがない。
日もだいぶ傾いている現在、私は深いため息を吐いてから自身にあてがわれた屋敷へと足を踏み入れた。
屋敷の扉を開けるとギーッと軋む音を立てる。
日中だと言うのに薄暗い屋敷の中へ足を踏み入れると一瞬にしてホコリが舞った。
何の手入れもされていない屋敷。
一歩踏み入れる度に舞うホコリ。
「やっぱり、歓迎されていないか」
それは先程の結婚式でも分かっていた事。
誰一人私には話しかけてさえ来ず、夫となったアレックスはそんな私に近付く事もなく、ずっと放置されていた。
お陰で一人で悠々自適に料理を楽しむ事が出来て、私は生まれて初めて満腹と言うものを知った。
「風よ、屋敷のホコリを取り除いて」
勿論、魔術を習った事のない私は呪文を知るはずもなく、具体的にお願いしたい事を言う。
すると、私の足元から微弱な風が生まれホコリを舞い上がらせながら屋敷全体へと広がって行く。
「お掃除はこれでいいかな、次は明かりだよね」
私はそっと目を閉じて光の玉を思い浮かべる。
「光よ、我の道を照らせ」
そう唱えると私の目の前に光の玉が現れた。
薄暗い屋敷の中を明るく照らし、私はまた一歩と屋敷の中を歩きだした。
屋敷の構図は単純でダイニングとキッチン、浴室と寝室、応接室と書斎だけの簡素な作りだった。
ただ、キッチンには食材がなく、浴室も水が出ない。
寝室のベッドの布団は古い物で、触った所から布地が裂けてしまうような物だった。
どう考えても人が住む為に用意された物とは思えない。
既に外は暗くなっており、これからどうしたものかと考えてしまう。
どうせ寝室では寝られないと判断し書斎へと移動した。
出来損ないの王女には最低限の教養を教える先生は付いたが、本当にそれだけだった。
故に、勉強と言う勉強は図書室を使っていた。
まぁ、結婚が決まってからはダンスやマナー等の教師も付いたが何せ時間がなかった。
恥ずかしくない程度の教養が何とか身に付く程度のもので、正直あれで王女とは言えないと思う。
それに魔術の才能のない私は最後まで魔術の先生が付かなかった。
それに、図書室でも魔術に関係する書物は魔術師のみの閲覧だった為に魔術がどういう物かもよく分からない。
だから、もしかしたら魔術の本が置いてあるかもと期待しながら書斎の扉を開いた。
先程のホコリを取る魔術は上手くいった様子で、書斎にはホコリ一つなかった。
書棚は数冊の本が置いてあるのみで直ぐに目的の魔術の本に当たった。
と言っても、魔術の本はその一冊のみだったが、私は初めての魔術の本に心躍らせて読みふけっていた。
魔術の本は世界の創造から始まり、神様の成り立ちへと話が進む。
最初の神様は光と闇の双子の姉弟から始まっていた。
「何これ面白い」
神話の世界に魔法の始まり。
神様に愛された魂。
そして、自然を司る精霊達。
最後のページには不思議な魔法陣が書かれており、本はそこで終わっていた。
「我と契約せし者、その力を示せ」
最後に書かれていた言葉を読んだが特に何も起こらず静寂だけが佇む。
「やっぱり、何も変わらないのか・・・」
落胆し本を閉じたその時、外から馬の嘶く音が聞こえた。
至る所が朽ち果てている建物だった為に、外の音もバッチリと聞こえる。
私は急いで魔法で出した光を消すと、そっと書斎の窓から外を見た。
幾人もの兵士が松明を持ちこの小さな屋敷を囲んでいた。
その先頭には先程夫婦の誓いをたてた夫の姿があった。
「閣下、全員配置に付きました」
「ルワールの王女は屋敷の中に入ったきり外には出ていません」
先程私をここに放置した御者がアレックスに報告をしている。
「よし、ではこれより我が花嫁と最後の面会といこうか」
スラリと抜かれた剣。
「死ぬほど素晴らしい初夜になろう」
アレックスの言葉に兵士達が勝ちどきをあげる。
「どうしよう。私殺されちゃう」
最後までお読み頂きありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。