ルワールに入ります
軽い軽食を済ませ、宿を出た一行はルワールへ入る検問の入口まで来ていた。
馬を2頭連れており、一頭はゼバスの軍馬で、もう一頭はメイドが乗って来たものだ。
どちらも力強くスラリとした体躯の馬だ。
「次の方」
検問をしている兵士が事務的に声がけをする。
ゼバスさんを先頭に私達は兵士の前まで行く。
ゼバスさんが一枚の書類を見せると兵士は深々と頭を下げ、そのまま何の確認もなく通された。
門を潜るとそこはルワール。
何か特別感じるものがあるかと思えば、そうでもない。
マルセタと代わり映えのしない風景に国境を越えたという認識さえなかった。
「国境を越えたら何かあるのかと思っていたけど、何もないんてすね」
ボソリと呟くとゼバスさんがおかしそうに笑う。
「特に何かが変わる事はないですよ。国境とは人が勝手に決めた事、自然界の摂理からしたらなんの隔たりもありません。ただ、人が勝手に地上に線引をしただけ。変わるとしたら人の心でしょう」
ゼバスさんはそう言うと手を差し出して来る。
「ここから次の町まで結構な距離があります。どうぞお手を」
ゼバスさんは紳士的に私をエスコートしてくれる。
そんなゼバスさんと私の間にレックスさんが入って来る。
「俺達は自転車に乗るから大丈夫だ」
レックスさんは威嚇する猫のようにゼバスさんを見る。
「困りましたね。どうやら追っ手がいるようなので、急いで移動したいのですが」
「急ぐなら尚更俺達は自転車の
方が良い。馬に二人乗りでは、馬が疲弊する」
確かに、2人分の荷重がかかればそれだけ馬は疲弊する。
「その自転車とは、この軍馬のスピードに着いて来れますか?」
ゼバスさんが眉間にシワを寄せながらレックスさんに問い掛ける。
まるで挑発しているようでもある。
「余裕ですよ。そちらこそ、俺達の足を引っ張らないで下さいね」
な、なんでこの二人はこんなに反発するのかしら?
「エトラ、自転車を出してくれ」
レックスさんは真顔で私にそう言う。
私はやれやれと言うように麻袋から自転車を2台取り出した。
「これが自転車」
ゼバスさんが興味深い様子で自転車を見ている。
「早く馬に乗れ、その後を着いて行くから」
尚も挑発的なレックスさん、対してゼバスさんはレックスさんよりも自転車に興味津々。
「あの、ゼバスさん、そろそろ出発しましょう」
私の提案にゼバスさんも「そうですね」と納得。
ゼバスさんを先頭にレックスさん、私、メイドさんと言う順番で走り出す。
因みにだが、馬は全力疾走で走れる時間は5分位だ。
夜通し自転車を疾走させていた私達と張り合うなんて到底無理な話だ。
まぁ、ゼバスさんがそんな無謀な事をするとは思えないけどね。
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