自転車に興味がある様子で
「もしレックス君が断るなら、他の代役をしてくれる人を探すのもありかもしれない」
ゼバスさんがチラリとレックスさんを見ながらそんなことを言う。
「いえ、他の人を雇う必要はありません。元々俺にきていた依頼です。内容の多少の変更は現場では良くあることです。勿論引き受けますよ」
言った。
言い切りましたよね。
言質取りましたよね。
私はゼバスさんを見ると、ゼバスさんも私の方を見てコクリと頷く。
「では、公の場とか主要な人物と会う時はアレックスを演じて下さい。それ以外は何時も通りで構いません」
ゼバスさんが営業スマイルでレックスさんに微笑む。
「分かりました。ゼバスさん」
レックスさんとゼバスさんの話が終わると、バーナードさんが立ち上がる。
「じゃ、俺のオモリはここまでだな」
そう言って立ち上がったバーナードさん。
「お前達がヤマタノオロチ討伐に向かう頃までは無限ダンジョンに潜っていると思う。その後はキリに会いに行くから、その時にまた会おうじゃないか」
バーナードさんは何故か勝手にキリさんに会いに行く計画を立てている。
「何せ、俺が強くなる事を願ってこのポーチをくれたキリだ。更に強くなった俺にきっと会いたいだろう」
いえ、多分キリさんはそんな事を思ってもいないと思いますよ。
「だから、キリの家で再びお前たちと会える日を楽しみにしている。じゃあな」
バーナードさんは最後まで私の話を聞かずにそのまま部屋を後にした。
お礼も何も言えなかった。
けど、これだけは言える。
キリさんはバーナードさんを家には入れないと思います、と。
何せキリさんは今や自他ともに認める愛妻家と親バカなのだ。
そんなキリさんがあのバーナードさんをリナさんとルアン君に合わせるだろうか?
いや、ない。
ないなー。
そんな事を考えていた私をゼバスさんの声が現実へと引き戻す。
「少し急いで国境を越えたほうが良いようだ。直ぐに出発したいと思う」
勿論、荷物は全て袋の中なので特に準備は必要ない。
「それと、申し訳ないが移動は馬車ではなく、馬での移動になる」
ゼバスさんが私に気を使いながらそう言うが、乗馬服を着た時点で大体は察していた。
と、言うよりは私とレックスさんは馬よりも自転車で移動したい。
正直に言えば馬は結構腰にくるんですよ。
「あの、ゼバスさん、私とレックスさんは馬ではないモノで移動したいのですが」
「馬車は無理ですよ」
ゼバスさんの営業スマイルが怖い。
「いえ、自転車を使用したと思っています」
「自転車?聞いた事がないな」
ゼバスさんは自転車に興味を示した。
「今度カーター商会から出す商品でして、馬と一緒に並走したいかな?と思いまして」
何故か営業モードに入ってしまった。
「ご興味があればまだ発売前ですが融通しますよ」
既に上客様には売ったのだ。
今量産中だが、数台位なら大丈夫だろう。
「では、先ずは実物を見てから決めたいと思います。取り敢えず、今はこの町を出る事を優先しましょう」
ゼバスさんはニコリとそう言うと私達を促した。
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