国境の町ランカ
夏が始まる頃、私達は無限ダンジョンを後にして国境の町ランカに来ていた。
国境の町ランカはマルセタとルワールの検問を挟んだ両国の共有地になっており基本的に商人たちが多く、両国の品物を輸出輸入の為の取引を行っている。
商人は検問を通る時に持ち込んだ商品の関税を一時払いし、持ち込んだ品物書きを作成する。
そして、最終的にはランカの町を出る時に売った分の品物を精査され最終的な関税額の精算をする。
その時に両国に入る税金が確定し月末締めで各々の国へと納税される仕組みになっていた。
私達はバーナードさんの顔パスで難なく検問を突破。
バーナードさんは伊達にSSランクの冒険者ではないと言うことだ。
「一応レンジさんがルワールの知り合いに連絡を取っていて、ルワール側の知り合いと鳩の宿屋で落ち合う事になっている」
バーナードさんはそう言うと道狭しと並ぶ店の品を物色しながら鳩の宿屋を目指す。
「ルワールに入ったら買いたい物も買えないだろうから、今の内に買っておけよ」
バーナードさんが珍しくまともな事を言う。
雪でも降るのではないだろうか?と、耳を疑ってしまったくらいだ。
「特に必要なものはありません」
それに必要なものがあれば転移魔術で取りに行けばいいしね。
「そうか、なら、このまま鳩の宿屋に向かおう」
バーナードさんは慣れた様子で複雑に入り乱れている道を進んで行く。
レックスさんもランカは初めてらしく、バーナードさんからはぐれないようにと速歩きで着いて行く。
「エトラ、逸れると大変だから」
と、手を差し出して来た。
確かに、結構な人混みで油断していると見失ってしまう。
「俺もこの町は初めてだから、師匠の後を追いながらエトラを気にする余裕がないんだ」
へーそうですか。
思わず白けてしまう自分がいる。
別に、何も期待なんてしていないけどね。
「はい」
私はレックスさんの手を取ると一瞬レックスさんの耳が赤くなる。
「じゃあ、急ぐぞ」
私が声をかける暇もなく、歩き出すレックスさん。
見間違いかな?
そう思いながら私はレックスさんに引っ張られながら、人混みの中をかき分けて歩いて行った。
鳩の宿屋はランカの町の中心部より少し外れた場所にあった。
宿屋に入ると事前に知っていたのか、バーナードさんは3階の部屋へと向かう。
3階の部屋は2階までの部屋と違い貴族が泊まれるように大きな作りになっていた。
階段を登り終わると右と左の二部屋しかない。
バーナードさんは右側の部屋の扉をノックする。
「バーナードだ」
バーナードさんが名乗るとそっと扉が開かれた。
「よう、久し振りだな」
現れたのはバーナードさんと同じ様な体格の冒険者風の男だ。
銀髪に水色の瞳。
でも、何処かで会った事があるような気がする。
「で、そちらがレックス君にエトラさんか」
何故かレックスの名前を呼ぶ時だけ冷たい感じに聞こえたのは気のせいかしら?
「んじゃ、急いで準備をするか、余計なお客さんが来る前に町を出た方が良さそうだしな」
「あの、エトラです。よろしくお願いします」
私は失礼のないように挨拶をする。
「ああ、ゼバスだ。よろしくな」
あれ、名前も何処かで聞いたような。
「奥の部屋にメイドを頼んでおいたから直ぐに着替えてくれ」
私が考える余裕もなく奥の部屋へと通される。
そこには一人のメイドがまっており、準備された服装も貴族の令嬢が着る様な乗馬服だった。
「こちらに着替えて頂き、最後にカツラを被って頂きます。お時間がないので質問等は受け付けません。よろしいですね」
有無を言わせぬ説明に私は頷くだけだった。
急いで気替をしてカツラを被ると凄い既視感が湧く。
ああ、これはミリアだ。
3年前のあの日最後に見た自分がそこにいた。
あの時より大人になった自分。
ボーッと自分を見ていると、後ろの扉が開く。
「これより貴女様は元ルワールの王女ミリア様になります。エスコートさせて頂きますね」
そう言って室内に入って来たゼバスは私の手を軽く取ったのだ。
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