北の宿屋では
冒険者ギルドを後にして、私達は宿屋を探す事にした。
「宿屋はそうですね。ここから少し北のところにある集落に確かあったはず。師匠と何度か泊まったんですが、どうも俺達は避けられていたみたいで、盗賊には残念ながらそう遭遇しなかったんですよね」
多分、Sランク冒険者のバーナードさんが一緒だったからだと思います。
あの方、脳筋だけど見た目強そうですからね。
「あの、一応今回の件は私の冒険者ランク昇級がかかっているので、基本的には私にやらせて欲しいです」
何せ私には神様達から貰った加護があるから。
つまり魔術でなんとでも出来るということだ。
それに、レックスさんだとなんとなく盗賊を殺してしまいそうでちょっと怖い。
ここで懸賞金の話をちょっとしよう。
懸賞金首というのは、生きたままとらえると満額支給で、死んでしまうと半額になってしまうのが通常だ。
依頼の中には生死を問わず、となっているものもあるが、それは稀なケースだ。
折角ヤルなら満額貰わないと割に合わない。
レックスさんは脳筋師匠に育てられたから、その辺りの手加減が想像出来ない。
それに、聞く所によるとレックスさんの依頼完了の報酬はバーナードさん預かりになっているそうだ。
つまりだよ。
レックスさんは依頼報酬を貰った事がないらしい。
「ヤバくなったら手を貸してくださいね」
最初にそうレックスさんに念を押しておく。
多分、ウカさんの加護で手に入れている植物の魔術で捉えられるような気がする。
結構あの魔術は色々と使い勝手があり、戦闘では好んで使用していた。
いや、戦闘以外でも使用していたんだけどね。
主に、ダンさんの農場とか。
ウカさんの加護には色々と制限があり、現世の世界で使用出来るのは現世の世界に存在する植物のみなんだ。
けど、逆に考えればその多様性は計り知れない。
「賞金首の満額支給になったら、レックスさんに何かお礼をしますね」
いつもタダ働きな上に色々奢ってくれるレックスさん。
クエスト報酬も討伐報酬もないのに、何処からお金が湧いてくるのか。
きっと良いとこの坊っちゃんか、お貴族様なのだろう。
「正当な報酬なので、期待していて下さいね」
※※※※※※※
ユグの町より北に5キロ程行った所にその宿屋はあった。
二階建ての小綺麗な建物で部屋数は二階に五部屋一階は食堂と受付、そして客室が二部屋あった。
「部屋を一つ頼む」
小綺麗な二人の子供が入って来るなり受付まで歩いて行きそう言った。
「食事も部屋で取りたいんだが」
少し大きい方の子供が店主に向かって話を進める。
二人共フードを目深にかぶり容姿の程は分からないが、着ている服装は上質な物だった。
「おいおい、カモが来たぜ」
食堂でたむろっていた男達はヒソヒソと話し出す。
「あの手を見てみろよ。色白で柔らかそうだ」
「どこぞのボンボンなら身代金を貰って、その後に奴隷として売っちまおうぜ」
二人の子供に対応していた店主は二階の部屋の鍵を渡すと前金として十万リラを要求する。
気前よく、大きな方の子供がお金を払うと二階へと消えて行った。
「おい、わかってるんだろうなぁ」
食堂にいた男の一人が店主にそう言う。
「勿論でさぁ、たんと眠り薬を入れまさぁ」
胡麻をするように店主が男達にヘコヘコする。
「取り分は何時も通りで」
「ハッ、この腐れ店主が」
男達はそう言うとケラケラと笑った。
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