新たな魔獣ですか?
アンドリューさんは人好きするような笑顔で私に微笑む。
男前な笑顔で微笑まれると何ともこそばゆい。
「アンドリュー、その辺で」
アイーダさんが私達の前に出る。
「ごめんなさいね。アンドリューは魅了のスキルを持っているの」
「アイーダ、企業秘密だぞ」
アンドリューさんはちょっと唇を尖らせて抗議する。
「まぁ、魅了と言っても少し高感度を上げて交渉しやすくする程度だがね。けど、どうやら君には効かないらしい。まぁ、立って話も何なんだ。座って話そうか」
アンドリューさんはそう言うと備え付けの応接セットへと私達を誘導する。
一人掛けのソファーにアンドリューさんが座り、三人掛けのソファーに私とレックスさんが座る。
アイーダさんは私達にお茶を出すとアンドリューさんの隣の一人掛けのソファーへと座った。
「君の事はバーナードから聞いているし、レンジさんの依頼で君の事は全面的に協力する事を約束した。この地域から国境までの移動については俺の権限でフリーパスになる」
おお、レンジさん。
いつもながらに仕事にそつがない。
流石キリさんの上司だ。
「こちらとしても天下のレンジさんと、今、飛ぶ鳥を落とす勢いのカーター商会会頭と懇意に出来るのはメリットが大きいからね」
アンドリューさんはそう言うとまたウインクをする。
この人は、言葉の度にいちいちウインクをするのだろうか?
ちょっと面倒くさい。
そんな事を考えていると、何故かレックスさんの顔が険しい。
「エトラはまだ子供なんです。惑わすような行動はお辞め下さい」
レックスさんがピシリと指摘をする。
けど、何を惑わしているのか?
良く分からない。
「ハハ、あのレックスがなぁ」
アンドリューさんは顎に手をやりニヤニヤと私達を見た。
「取り敢えず、俺達はこの辺りに出る宿屋を襲う盗賊を捕まえる予定です。規模が分からないので一応報告しておきます」
レックスさんがギルドマスターにそう言ったのには理由がある。
多分、今回の盗賊は大規模な集団だと思われるからだ。
「賞金首として、礼金は弾むぜ」
勿論、盗賊の面が割れていないので賞金首額も難易度も分からない。
「生死は問わない。それで良いか?」
アンドリューさんの言葉にレックスさんは「勿論」と頷く。
今回の盗賊は賞金首に指定されていない為に事前に言質を取りに来たらしい。
確かに盗賊とやり合って万が一殺してしまった場合、殺人罪になっては意味がないからだ。
「ああ、そうそう、南の森に新種の魔獣が出たらしい。行くなら気をつけな」
立ち上がるレックスさんにアンドリューさんがそう言う。
「何でも、二つの光る眼が物凄いスピードで高笑いしながら横切るらしいんだ」
「そんな魔獣、聞いた事もないな。昨夜は南の森を通って来たが、そんな魔獣には遭遇しなかった」
「そうか、それなら良かった。実害が出ていないから討伐隊は組んでいないが、気を付けるに越した事はないからな」
アンドリューさんの助言に深く頷くレックスさん。
あれ、でも光る二つの眼って・・・まさか。
あまり想像したくない。
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