自転車のライトが気になります
今現在、私たちはユグの町目指して疾走している。
レックスさんとの話で宿屋に出没するという盗賊もとい不届き者を討伐する事になった。
先程の話でなかなか遭遇しなかったと言っていたが、多分バーナードさんが一緒だったから遭遇しなかったんだと思う。
Sランク冒険者として名を馳せて久しく。
それにあの見るからに脳筋的な顔にあの規格外の性格。
きっと冒険者仲間の間でも超有名人なのだろう。
故に歩く広告塔とよろしく、賞金首達も鳴りを潜めたのだと思う。
そして今現在、レックスさんと私はどう見てもおこちゃまだ。
つまり良い鴨になる。
「あの、レックスさん。このまま走るとユグの街までどのくらいかかりますか?」
私の問いかけに
「そうですね。今日着くのは無理ですが、明日には着くかと思います。ところで、エトラに聞きたかったんだけど、このタイヤの横についてる。これは何?」
時速60kmはあろうかというスピードで走りながらも指差ししながらそんなことを聞いてくるレックスさん。
レックスさんが示したのは自転車のライト部分だ。
この世界に電気という概念はない。
魔術が発展し、魔道具が一般的なこの世界では前世で言うところの部屋の照明器具は光属性の魔術を使用した魔道具で灯す。
キッチンにしても、火はやはり火の魔術を施された物で、魔石を使用するのだ。
前世の気分で普通に使っていて、後から知ったんだけどね。
つまり、私たちが生活する上で魔石は欠かせない要素になる。
魔石が空になると、魔石に魔力を込めると再び復活する。
ただし、魔力の保有量が人それぞれ違うし、魔力を込めるのには技術がいる。
しかし、それを解決する魔道具が開発さらている。
ペンダントタイプの魔道具で、ペンダントトップの部分に空になった魔石をはめて肌身離さず持ち歩き魔力を溜めるらしい。
この国の平均的な小学生程度の子供が魔石を肌身離さず持ち歩いていると、小さい魔石なら3ヶ月で満タンになるらしい。
なんてエコなのだろうか。
つまり、家族みんなで魔石を持ち歩き光熱費に当てているというような考えだよ。
素晴らしい。
けど、さっきも話したように時間がかかる。
キッチンで使用する火力の高い魔石の補充には追いつかないのだ。
なので、空になった魔石に魔力を補充する専門職の人もいるが、結構な金額がするらしい。
なので、裕福でない家庭は今でも薪等を使用しているらしい。
「それは魔石を使わないで光を発する道具です」
私の言葉にレックスさんが驚いたような顔になる。
「魔石を使わずに光を発するなど、どういうことですか?」
「これは夜にならないと分らないと思う。今遣っても昼行灯になるし、ああ、意味が違うか」
「昼行灯が何か分かりませんが、何となくニュアンスで分りました。つまり昼間にやってみても、これの効力の素晴らしさの分からないということですね」
「そう、その通りです。つまり夜にやってみなきゃ分からないということです」
「あの、早速今夜使ってみたいのですが」
レックスさんは目をキラキラさせながら私の方を見る。
「レックスさん、危ないので前を見て下さい」
焦ってレックスさんを叱ってしまった。
「大丈夫ですよ。移動中も索敵しているので」
ここはダンジョンかよ。
「分かりました。では、そのライトの性能を見せましょう」
実はこのライトは鍛冶の神様にお願いして作って貰った一品だ。
持つべきモノは神様だとつくづく思う。
だってこの世界にない物もこうやって作り出す事が出来るのだから。
そして、夕暮れに染まった大地を駆け抜ける私達。
昼食の時間がズレた為にそれ程お腹も空いていない。
「よし、今夜は飛ばすよ」
私も思わず掛け声を掛ける。
そして、その夜冒険者達によって語り継がれる七不思議の一つが生まれた。
夜に二つの光る眼がもの凄いスピードで走り抜けると。
夜と言う事もありスピード感が鈍ってしまった私達は高速道路を走行するような勢いで夜の野山を駆け抜けたのだ。
「素晴らしいねエトラ。感動したよ」
レックスさんはとても楽しい様子でその晩私達はユグ町まで駆け抜けたのだった。
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