メイソンさん登場
お茶でだいぶ和んできた頃にお隣さんの息子さんが帰宅してきた。
「ただいま〜。あれ?お客さん?」
ちょっとした余所行きの格好の塩顔の青年が入って来る。
服の上からでもガッシリとした体が伺える。
「息子のメイソンよ。今は鍛冶見習いをしているの」
「こんにちは、息子のメイソンです。宜しく」
明るい感じで話すメイソンさん。
女の子にモテるだろうなぁ。
「今年で15になるのよ」
「まぁ、頼もしいわね」
ハンナさんはメイソンを見ながら楽しそうに話す。
「先週、師匠の所から家に帰って来たんです」
後から聞いたのだが、この世界の平民の子供は12歳から仕事を始めるらしく、メイソンさんも12歳からお父さんであるジョンさんの師匠の鍛冶屋に弟子入りして、一通りの修行を終えて先週戻って来たのだという。
「先週帰って来たら、人だかりが凄かったから自分の家が分からなくなる所だったよ」
メイソンさんはそう言って朗らかに笑う。
うん、間違いなくモテる。
「所で、そちらの子供は?」
15歳の子供に子供と言われるのも不思議なものだけど。
「えっと、初めましてエトラです」
それだけ言ってお辞儀をする。
「エトラって、ハンナさんの孫の?」
「はい。そうです」
私はそう言ってニコリと微笑む。
「メイソン、私達はお仕事のお話があるからエトラにお店でも見せてやって」
ベラさんが私の方を見ながら息子さんを誘導する。
「まぁ、いいけど。エトラおいで」
メイソンさんは私を手招きしてそのまま店内を見せてくれた。
「ここに置いてあるのは全部親父が作った物だ」
メイソンさんは得意気に店内の商品を見せる。
「ここからはハサミで、大きいのは木の枝を切るのに使う。小さいのになると糸切りとかもある」
見せられたハサミはどれもシンプルな作りだ。
本当に実用的な物だと納得もする。
そして、包丁やナイフ、ノコギリと色々な道具を見せられたが、やはりピーラーはなかった。
ついでに言えばスライサーもなかった。
どちらも欲しいが、今切実に欲しいのはピーラーだ。
「ねぇ、人参とかの野菜の皮むきをする器具はないの?」
一応、並んでいないだけかもしれないので、聞いてみる。
メイソンは首を傾げて「野菜って皮むきなんてするのか?」
と、それ自体を聞いてきた。
えっ、人参の皮はむくよね。
「野菜の皮むきなんてしないだろう」
「えっ?マジで?」
「野菜の土を綺麗に洗えば良いだけだろう」
まさかの皮付き。
確かに、皮付きのフライドポテトもあるよ。
あるけど、色々料理をする上では皮むきは必要な事だよね。
ポテトサラダとか作る時にはやっぱり皮は邪魔だし、見た目にも美味しさを追求したいじゃない。
「じゃあ、発想を変えて。野菜を薄く剥いたり削ったりする道具って作ってみる気はない?」
交渉の第一は相手の興味を引く事だ。
私の言葉にメイソンさんは目を大きくさせる。
「どんなド素人でも大根を薄くスライス出来るとしたら?」
無言で私を凝視するメイソンさん。
もう一押しかな?
「誰も見たことのないキッチングッズを作ってみない?私なら手助け出来るよ。一緒にやってみない?」
「誰も見たことのない・・・」
私の提案にメイソンさんはゴクリと唾を飲み込む。
メイソンさんが悪魔の囁きに墜ちた瞬間だった。
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