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野営地が安全な理由

レックスさんは機嫌良くサンドイッチ食べ、私は口直しの果実水を飲んでいる。

いえね、色々と思う所もあるんですよ。

レックスさんを見れば何時も通りに食事をしている。

それもそうか、私の事は男だと思っているのだから。

そんな事を考えていると、複数の人間が野営地に近付いている気配を察知した。

このスキルはクロードさんから頂いた便利機能のようなもので、旅に出る私に餞別代わりににと頂いたものだ。

その複数人は気配を消している様子もないので普通の冒険者か旅人だろうと推測される。

「野営地は夕方近くから人の出入りが多くなります。今はちょうど空き時間ですけど、冒険者は夕方近くになると近くの町に戻るか、もしくは野営地に行くかを決めます。そして野営地では一晩明かし、夜が明けたら食朝食を取ってすぐ出発するのが普通です。そろそろどちらにするか決める時間帯になって来たようですね」

どうやらレックスさんも複数人の気配を察知したようだ。

流石Sランク冒険者だ。

野営地は陸路に何点か存在する場所で、竜脈とか地脈の影響下にあり、魔獣があまり寄って来ないらしい。

理由は良く分からないが、野営地には夜に活発になる魔獣でも近づき難いという利点があるので、夜は野営地に来る冒険者が多いのだ。

そのために各箇所に冒険者ギルドが定期的に回って野営地という場所を維持して存在しているらしい。

「魔獣の嫌う魔力の波動があるのだろう。ここはある意味冒険者の休息地だから」

前世の風水なんかでよく聞いたことがある。

龍の目を目の場所とか、なんとか、都市にはそういうパワースポットみたいな場所があるらしく、必ず竜の瞳のところに立った建物が繁栄するというわけではないらしい。

あくまでも都市の中にそこがあるというだけで、そこをうまく活用できなければ、結局は何の意味もないらしいのだ。

なんとも奥が深いよね。

良い場所に立ったからと言って繁栄するわけではないし、悪い場所に立ったからといって繁栄しないわけでもない。

逆に言えば繁盛するようなお店とかがパワースポットに立った場合、どうなっちゃうのかな?今まではキリさんと一緒に人の流れとか流通や便利性、色々なものを諸々合わせてお店を決めてきた。

勿論ジンさんが何箇所かここが良いだろうとチョイスしてくれている時もある。

そういうのって、もしかして魔力の流れも気にしているのかと思うよね。

「では、他の冒険者が来ない内に、そろそろ行きますか」

レックスさんはそう言うと立ち上がる。

ゆっくりとした昼食はバーナードさんがいないから叶う事だ。

あの人とがいると、どうも食事をゆっくりとっている暇はないのだ。

「そうだな。では、行こうかエトラ」

レックスさんは手を差し出して来る。

そして、さっきから感じている違和感にやっと気がついた。

レックスさんはいつも私のことを「エトラさん」と呼んでるのに、さっきから私のことを「エトラ」と呼び捨てにしていた。

何故?急にどうしたの?と思い、思わずレックスさんを見る。

「あの、えっと、名前呼び捨てですよね」

別に非難する訳ではないが、突然な事に驚いてしまう。

レックスさんはにっこりと笑い。

「雇用主と雇用者という関係で終わらせるのももったいないと思って。どうだろうか?友達にならないか?」

と言ってきた。

いや、実際もう友達気分でいたんですけど、と言ってはだめだろうか?

多分レックスさんからしたら、この「さん」付けは自分なりのけじめだったのかもしれない。

「私は既にレックスさんのことを友達だと思っていました」

逆にそう思われていなかったことに驚きだけどね。

私の言葉にレックスさんは目をキョトンとさせる。

「すみません。そうだったんですね」

と、ちょっとバツが悪そうにするレックスさん。

「もともと、この依頼は断れない依頼だったので、どのような方が来るのだろうとちょっと懸念していたんです。何せカーター商会は自分と同じ年の人が立ち上げたって言うじゃないですか。どんな切れ者かと内心ドキドキしていました。でもここ数日、エトラと過ごしていて分ったんです。エトラは真面目で素直で好奇心が旺盛で向上心も高く、自分にないものをいっぱい持っているんだと、だから友達になりたいと思ったんだ」

何だろう?このセリフ。

この人ド天然なんじゃないだろうか?

「褒めていただいてありがとうございます。私もレックスさんには色々と良くしていただいて、本当に良い友達だと思ってるんです。これからもよろしくお願いしますね」

「ああ」とレックスさんは手を差し伸べてきた。

これは友情の握手だろうか?

私はレックスさんの手を取るとレックスさんは嬉しそうに握手する。

でも、今更私がレックスさんを呼び捨てで呼ぶのはちょっとないなと思う。

「エトラも俺のこと呼び捨てで呼んで欲しいんだけど」

やはり、そう要求して来ますよね。

けど、それは私にはなかなかハードルが高いような気がする。

「すみません。ちょっとハードルが高いです」

一応前世日本人なだけあり呼び捨てにするのはちょっと憚られる。

内心チキンなんですよ。

「俺にはあまり友人と呼べる人がいないので嬉しいよエトラ」

というような意外なセリフを言うレックスさん。

冒険者仲間とかそういった方がいるんじゃないだろうか?と思ったが、よくよく考えてみると、確かレックスさんは冒険者になって、すぐにバーナードさんと共に行動をしていたらしいから多分無理だったのだろう。

あのバーナードさんだ。

そりゃあ冒険者の仲間なんて出来るはずないよね、と、なんとなく納得がいってしまった。

「元々あまりしゃべるのが得意な方じゃなくて、友達と呼べる人も少なくて、将来性の上司のような関係になる歳の近い人だったらいるけど、それも親友というほどではない。相手は俺のこと愛称で呼ぶけど、自分は愛称で呼ぶなんてことは絶対できないし。だからエトラは俺にとって初めて名前を呼び捨てに出来る友人なんだ」

そう言ってレックスさんははにかんだ。

やっぱりこの人天然ですよ。

私は半ば諦めてレックスさんが呼び捨てで私を呼ぶことを承認した。

かと言って、私がレックスさんを呼び捨てにするかと言うと、それはまた別の話である。

お読みいただきありがとうございます。また読んでいただけたら幸いです。

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