軽く飛ばして行きましょうはおかしいよね
翌朝、私達は朝日が登ると同時に出発した。
ケイレブさんに朝食と昼食のサンドイッチを作って貰っている。
食堂で食べてから出発すれば良いのだが、何故か食堂で食べるとゆっくりとしてしまうので、敢えてサンドイッチにしたのだ。
サンドイッチは簡単な物を事前にレクチャーしており、ケイレブさんに大変喜ばれた。
サンドイッチはレシピ本を出しているので、と、そっとコマーシャルもしておいた。
この町の本屋さんには置かれていなかったようなので、カーター商会の店舗にそっと置かせて貰った。
明日以降の売上報告が楽しみな事だ。
さて、私とレックスさんは転移魔術で宿へ戻るとそのまま部屋でサンドイッチを食べて水筒に入れた果実水を摂取した所で宿を出た。
町はまだ朝の静けさの中にあり、清々しくもあった。
「軽く飛ばして行きましょう」
レックスさんがそう声がけをし、それに私が頷く。
町の中は障害物が多いので軽くランニングするつもりで並んで走る。
俗に言う朝ランだ。
但し、その速度はランニングの域を超えているように思える。
ってか、軽く飛ばすっておかしいよね。
まるでゆっくりと急いで下さいねって言われているのと同じような気がする。
とても矛盾した言葉だ。
数人の町人とすれ違い、数人の冒険者とすれ違う。
町人は忙しいのか、私達には気も止めず去って行くが、冒険者は驚いたような顔で私達を見る。
最初はランニングしているせいかと思ったが、どうやらレックスさんを見て何やら言っているようだ。
風の魔術で声を拾うと
「あいつ、イカレた獅子の弟子じゃねぇか」
「マジか、あいつの姿は見えないようだが、別行動か?」
「あまり近付かない方が良い。火の粉も煙もなくても火事で火傷しちまうよ」
何となく、とんでもない評価を得ているように思う。
多分、イカレた獅子とはバーナードさんの事だろう。
数日一緒に過ごしただけでもイカレていると思うほどだ。
今は自転車と言うおもちゃを預けているから大人しいけど、またあの無茶振りを発揮されてはたまったものではない。
正直、良くレックスさんは生きてここまでこれたなぁと感心している位だ。
町の外まで着くと自転車を麻袋から取り出す。
「師匠の事はあまり気にしないで下さい。冒険者達から言われるのは何時もの事ですから」
達観したように言うレックスさん。
きっと、一緒に過ごした日々が彼をここまで何でも出来る子供に育てたのだろう。
ちょっと同情しちゃいますよ。
自転車を手にしたレックスさんは
「ここから全力疾走で北を目指します」
と宣言。
私達は再びアスリートのように走り出すのだった。
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