キリさんにしては珍しい
三人で昼食を摂った後、キリさんをへレジさんの別荘まで送り、私達は次の町を目指してサウスを後にした。
勿論、その理由はユリウスさんに自転車を納品するためだ。
なんでも、サドルをもう少し改良して座り心地を良くしたいらしい。
まぁ、上客様ですからね。
何かと気を使わなければいけませんよね。
さて、私達二人はと言うと、自転車を爆走させながら地理に詳しいレックスさんが前を走り、私がレックスさんを追う形で進んで行く。
相変わらずの速度を保ちながら進む私達は二時間程で次の町へ着いた。
「出発が遅れたので、今日はこの町で宿を取りましょう」
出発が遅れた原因は勿論キリさんだ。
「そう言えば、レックスさんとキリさんは以前からお知り合いですよね。あまり仲は良くないのですか?」
そう、キリさんはレックスさんに好意的ではなかった。
あのビジネス優先の敵を作らない主義のキリさんにしては珍しい事だ。
「はい。父の仕事の関係で知っています。多分、甘ったれなボンボンな所が気に障ったのかもしれません。最初から俺に対しては辛口でしたから」
それは意外だ。
「何か、そんな話を聞くとキリさんも人間なんだと思いました。ちょっと安心しますね」
レックスさんには悪いけど、キリさんの人間臭い所が知れてホッとしたのは確かだ。
「こっちはいい迷惑ですがね」
レックスさんは深いため息を吐く。
相当色々な歴史が二人の間にあったと見た。
宿は直ぐに取れ二人で部屋へと向う。
そう言えば、何故キリさんは最初の町まで同行しようとしたのだろうか?
「あの、この町には何かキリさんが気になるような事ってありますか?」
勿論、町に入った感じでは特に変わった所がない町だった。
今までと何ら変哲もないような所。
「いえ、特にはないと思います。特別な産業がある訳でもないし、特産品がある訳でもありません。至って普通の町ですね」
レックスさんが町の評価を話す。
「強いて言えば去年より、人の数が少ないと言う感じでしょうか?あくまでも夕方の町の様子ですがね」
成る程、確かに町の中の人通りはそれ程なかったと思う。
「じゃあ、取り敢えず宿の部屋にも入った事ですし、レンジさんの別荘へ戻りますか」
レンジさんの別荘へ行けばキリさんが居るし、疑問は直ぐに解けるはず。
私は部屋の内鍵を掛けるとレックスさんと手を繋ぎレンジさんの別荘へと転移の魔術を発動させる。
一瞬で風景は変わりレンジさんの別荘へと着いた。
屋敷へ入るとケイレブさんが直ぐに迎え入れ食堂へと案内してくれた。
「バーナード様とキリ様が先に食事をしております。別の部屋でお召し上がりになりますか?」
ケイレブさんはとても慌てたように問い掛けて来る。
「いえ、大丈夫です。キリさんに聞きたい事もありますので」
律儀なキリさんにしては珍しいと思いながら食堂へと入った。
そこでは、既に出来上がっている二人が互いにお酌をしながら盛り上がっていた。
「酒くさーっ」
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