キリさん自転車に乗れますか?
「今日はご一緒にいさせていただきたいと思います。このまま次の町に向い宿を取ってから戻ると言うのはどうでしょうか」
とキリさんが提案して来る。
とても意外な提案だ。
キリさんなら直ぐに自分の仕事をしたいと言うだろうと思っていたが、そうでもないらしい。「分かりました。では、そのようにしましょう。数日ここにいるつもりだったので、旅の準備はまだ何もしていないんです。とりあえず今日のお昼に食べる分だけの食料を調達しますので、それから出発する事にしましょう」
無難に話を進めていてふとある事に気付く。
「そういえば、キリさん。私達自転車で移動するんですけど、キリさんの分の自転車が」と言い難そうに言うと、キリさんは自身のカバンの中から自転車を取り出した。
「何ですか、それ?」
驚く私に
「実はですね。私の天才的な愛息子が作ってくれたマジックアイテムなんですよ」
キリさんはデレながら説明をするが、いや、多分それ、クロードさんが作りましたよね。
ツッコミ入れたいところだが、そこはあえて言わない。
ここで変な反応をしてキリさんの息子自慢のスイッチを押すと大変な事にある。
「実は、こんな事もあろうこと私はエトラ様に自転車なるものの設計図を頂いたおり、直ぐに試作品を作っていただきました。そして、毎日朝練を兼ねて練習した成果をとくとみせてあげましょう」
自信満々に宣言するキリさん。私はキリさんに乗るところを見せてないけど、キリさんは正しく自転車に乗れるのかしら?
と、ちょっと疑問に思っていると、キリさんは自転車のサドルに乗るとそのまま跨いだ状態で進んでいく。
ペダル漕いでないし、ペダル意味ないし。
「キリさんペダル漕いでない」
そう言うと
「ペダルですか?」
と、キリさんは疑問符で私に問い掛ける。
そういえば私の絵上手くペダルを漕ぐ形が描けなかったので、両足をペダルから離して滑走している図を書いていた。
坂道を下っている的な絵だ。
ペダルを漕いでいるシーンは確かに描かなかった。
「キリさん、自転車はペダルを漕いで進むんです。えっと今手本を見せますね」
私は自転車に跨るとさっとペダルを漕いで見せる。
「こんな感じです」
くるっとキリさんの周りを一周してみせる。
キリさんは「何と」と驚くけど、
「キリさんは基本的に乗れているので、多分ペダルを漕ぐだけなので簡単でしょう」
そんな私とキリさんのやり取りを見ていたレックスがキリさんに得意気な顔で自分は乗れますよと自転車に跨りくるくると私たちの周りを一周する。
「こんな感じですね。簡単でしょう?」と得意げに見せる。
この二人は何気に敵対心みたいなものがあるんだよね。
「貴方が乗りこなせたものを、私が乗りこなせないはずがない」と宣言。
そして、キリさんはペダルを漕ぐことに集中する。
「あのキリさん、練習している間に、私とレックスさんで昼食の食材を購入して来ますね」と言うと、キリさんは「勿論ですよ。エトラ様たちがお帰りになるまでに乗りこなしてみてます」と、自信満々に言う。
しかし、キリさん朝練をかねて毎日練習していたんですよね。
つまりペダルの使用をしての自転車の練習は初めてと言うことですよね。うーん、どうだろう?案の定、キリさんはペダルの方に足が行くとバランスを崩して転びそうになる。
しかし、そこは反射神経のいいキリさん。
直ぐに逆の足が出て地面を支える。
きっときっと大丈夫でしょう。私はレックスさんを誘って昼食の調達に向かう事にした。
「多分昼食はここで食べるようになると思うので、普通にテイクアウトしていきますかね?」
お昼まで後3時間。
キリさんは3時で乗れるようになるか疑問である。
街までで買い出しに行って一時間かなら2時間は街の見学出来るかな。
なんて事を考えながら進む。
「ついでだから市場調査をしていいですか?この町の流通している物や価格などを把握しておきたいんですよ」
どうしても商売魂の血が騒ぐ。
「では案内します」
ぶっきらぼうにレックスさんが応えてくれた。
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