王太子ユリウス
その連絡は夕食の前に届いた。
「何?もうサウスに着いたのか」
通信機にもなるペンダントを握り、明日の予定を素早く頭の中で確認する。
幸い、まだ学園は春休み中のため、ある程度の自由は利く。
「では、明日は伯父上に会いに行く事にしてワイバーンで向うよ」
ワイバーンは魔獣なのだが、テイマーがテイムして人に慣らすことによって馬の代わりに騎獣として使う事が出来る。
但し、ワイバーンはA級魔獣に入る為に、テイム出来るテイマーは殆どいない。
故に、複数人のテイマーでテイムする。
テイムしてからも普通の人に慣らすのに数年の年月を要してしまい、大変お高い商品になるのだ。
故に、相当な裕福層の者にしか買えない高級品でもある。
今の相場なら城が買えてお釣りが来るらしい。
しかし、ワイバーンの寿命は結構長く、今私が使っているワイバーンは祖父が購入して若い頃から騎獣としていたもので、それを考慮すると決して高い買い物ではない。
何故ならワイバーンは空を飛べて、速度も馬の全力疾走よりも早い。
乗る者は振り落とされないように風魔法で自身をワイバーンに貼り付けて、風圧を防ぐ必要がある。
ここ王都からサウスまでの距離を飛ぼうと思えば魔力量を100位は消費することだろう。
朝方に飛び立てば明日の昼には到着するはず。
「ったく、王太子の私に朝早くワイバーンを飛ばさせるとは、とんでもない親友だよなぁ」
まぁ、朝方はあまり眠れず起きている事が多いけど。
「悪いけど、明日の予定は全てキャンセルで、婚約者殿には後で埋め合わせの物を贈るから、取り敢えずの花束とカードを頼む」
近くに控えていた侍従にそう言付けると急いで夕食を食べる。
「それと、陛下には伯父上の顔が見たくなり出かけたと言っていてくれ」
私は急いで明日予定していた相手に、断りと謝罪のカードをしたためると直ぐに就寝した。
******
翌日朝の5時、東の空が白み始める時間。
一頭のワイバーンが城から少し離れた演習場より飛び立つ。
ワイバーンはぐんぐんと上空へと登ると急加速で南の空へと飛翔する。
「朝焼けが綺麗だなぁ。こんな空を独り占め出来るのは最高だろう。ハウル」
ユリウスは相棒のワイバーンの愛称を呼び、楽しそうに空を駆けた。
父が亡くなってからずっと共に過ごしたワイバーン。
何故か叔父上には懐かなかった為に、今は自分の専用になっている。
王家に数頭だけいる希少なワイバーンだが、ワイバーンも生き物だ、人との相性によっては乗せてもくれない。
そっと背中を撫でればハウルは嬉しそうにクルクルㇳ回る。
「私を落とすなよ」
決して落とした事はないし、落とさせるつもりもない。
これから5時間程の楽しい空の旅だ。
「ジンも人が悪いからな。楽しませて貰うよ」
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