自転車に乗ってみよう
さて、出発前に私はバーナードさんに自転車を披露した。
「このように乗って、このペダルをこぐと、このように進みます。右に行きたい時はハンドルをこのように動かし、左に行きたい時はこのように。そして、これがブレーキで止まります」
そう言って私は別荘の周りを軽く一周流す。
勿論、強化魔法を補助に使い、相当な速さで回って見せた。
「なっ、何と凄い乗り物だ」
バーナードさんは目を輝かせて自転車に食い付く。
それに対してレックスさんは目が死んだようになっている。
少年よ、男の子はこのように新しい発明品に食い付くものなんだよ。
心の中で密かに嫌味を言いながら私はバーナードさんとレックスさんに其々の自転車を渡す。
「では、先ずは自転車に跨ってみますか」
いきなり乗ってみようは無理なので、先ずは乗ってみた感じを体験して貰う。
バーナードさんはサドルに座った状態で両足がべったりと地面に着いている。
「師匠はもう少しサドルを上げた方がいいですね」
私はそう言うとバーナードさんのサドルを少し上げた。
そして、それに伴いハンドルの高さも調整。
「よし、こんなもんでしょう」
バーナードさんはこれでよし、次はレックスさん。
後ろを振り返ると私がやっていた手順を見ていて自分で自転車の高さを調整していた。
おお、若いってこういう事だよね。
と、変に感心してしまう。
「では、サドルに座って爪先で地面を蹴りながら進んでみますか。最初はヨチヨチ歩きから初めて、慣れて来たら少し早くやってみましょう」
私が子供の頃は転んで覚えろって言われたけど、転ばなくても体が感覚を覚えれば乗れる。
一時間位それを続けていると、レックスさんがいつの間にか乗れるようになっていた。
「凄いです。レックスさん」
普通は一時間で自転車を乗りこなせるものではない。
何と言う身体能力なのだろうか?
それに比べてバーナードさんは未だにヨチヨチ歩きだ。
レックスさんを意識して無理に歩幅を広げると転びそうになる。
「うん。これが普通だ」
バーナードさんを見てちょっとだけホッとしてしまう。
レックスさんが普通じゃないんだと。
「チキショー、何故弟子の方が先に乗れて俺が出来ない?」
いえ、それが普通ですよ。
「レックス、テメェズルしただろう?」
どんなズルですか?
「師匠、普通は乗れるまで一日位はかかるものです。レックスさんが異常なんです」
私の言葉にバーナードさんは納得出来ないと言う顔になる。
「俺はこれに乗れるまで特訓する。お前ら先に旅を進めていてくれ」
旅を進めると言う言い方は少し可笑しいが、宿屋に着けば別荘へ転移で戻るのだから間違ってはいない。
「分かりました。あまり無理はせず、食事と休養は取って下さいね。ケイレブさんくれぐれも師匠を宜しくお願いします」
このままでは飲まず食わずでやりかねないバーナードさんの監視役にケイレブさんを抜擢。
「承知しました。いってらっしゃいませ」
ケイレブさんは快く承諾し、私達は二人で旅の続きをすることにした。
「師匠、早く自転車乗れるようになって下さいね」
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