ゴンちゃんと精霊
その日、疲れてリュックの中で眠っていると、外から僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ねぇ、あれって聖獣様じゃない?」
「どれどれ、あっ、本当だ。聖獣様、私達が見えていますか?」
「うわ〜、私達ツイテルね。もうすぐこの世界に溶け込む所だったのに、こうして聖獣様に出会えるだなんて」
「うんうん、ツイてる」
二つの声は僕が眠るのを妨げるように近くに響く。
「ねぇ、私達との盟約を覚えている?」
「もしかして、忘れているんじゃない?」
「私達が生まれて消滅する位の時間が経っているからね。きっと忘れているよ」
ハハハ
フフフフ
もう、さっきから五月蝿いよ。
「あっ、反応した。聖獣様、そろそろ起きて私達と契約しましょう」
「聖獣様と契約したら、これ以上私達の仲間が消える事もなくなるから。だから契約しましょう」
僕は眠いんだ。
後にしてよ。
「今じゃなきゃダメなんだ。今夜私達は月に消えるから。だから早く聖獣様」
「お願い、約束だったよね」
ああ、五月蝿い。
僕はそっと目を開ける。
リュックの中だと言うのに、湖に浮かぶ二つの光が目に入った。
精霊は朝露に生まれて月夜の晩に月に帰る。
帰ると言う言い方が正しいかは分からないが、この世界から消滅するのだ。
昔、どんな約束をしたのかなんて、昔過ぎて覚えていない。
長い間、ヤマト島の巫女さんの中で神力を糧にずっとこの世界に生まれる時を待っていたんだ。
その途方もない時間の中で色々な事を忘れてしまった。
大切な何か、大事な事。
でも、きっと大丈夫だ。
分からない時は分る人に聞けば良いってご主人が言っているもの。
だから、僕は彼等に聞く。
「約束って?なに?」
「わっ、やっと話す気になってくれたんだね」
「フフフ、教えてあげる。私達精霊と神様がした約束」
「ヤマタノオロチに侵食されて死にゆく我らの依り代、それが聖獣」
「私達と融合する事で、ヤマタノオロチに侵食されて死にゆく我ら同胞を助ける存在」
「融合したら、君達は消えるんだろう?それで良いの?」
「消えるんじゃないよ。聖獣様の中で共に存在するんだよ」
「一緒に精霊が住める世界にして欲しいの」
「それが願い」
「もう、私達は消えるしかない、だから早く」
「時間がないから」
月に吸われるように二つの気配は薄くなっている。
確かに二人の言う通り、もうすぐ二人はこの世界から消える存在のようだ。
「分かった。後でゆっくり僕に教えて。僕の中で」
僕は二人の精霊に意識を集中する。
「盟約の元、我の中へ」
そう唱えると二つの光が僕の中へと入ってくる。
あっ、そうか。
思い出した。
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