自転車を作成します
ドラの店はそこから徒歩30分程の場所にあった。
ドラさんとはメイソンさんに仕事をいらいした後に一度だけ、メイソンさんの工房で会っている。
実は、その後に何度か私個人としてもメイソンさん経由で仕事を頼んでいるのだ。
今回ここへ寄ったのは
「こんにちは、エトラと言いますが、ドラ師匠いますか?」
外で水汲みをしている弟子風の若者に声を掛ける。
勿論、私よりは年上なのだが、前世の記憶があるからか、若いな~と見てしまうのは致し方ない。
「エトラさんですね。今師匠を呼んで来ます」
そう言って立ち去ろうとする若者の後ろを追うようについて行く。
「師匠、エトラさんと言う方が来ています」
ドラさんはデキタ剣の状態を確認している所で、弟子の後ろに立つ私に気付くと深々と一礼をした。
「ご無沙汰しとりやす。今日はどういった難問をお持ちになったんで?」
ドラさんは相変わらず冗談を交えながら対応してくる。
「フフフフ。以前から依頼していた歯車とチェーン、それとその他の部品の使い道をそろそろ完成させようと思いまして」
そう、それは車とか貴族向けの物ではなく、庶民向けの魔石を必要としない自力走行をする機械仕掛け、前世で言う自転車。
それを作って貰っていたのだ。
一応必要な書類はキリさんが作成してギルドへ提出しているが、まだ未完成だったのだ。
その理由は簡単。
クーラーと暖房器具、そして冷蔵庫と冷凍庫の販売に忙しかったために、そこまで職人も回せなかったからだ。
そして、当のキリさんもそちらの売上が右肩上がりの天井知らずだっために、多分忘れているのだろう。
決して新婚さんで親バカで色恋に溺れていたからではない。
「到頭完成するんですね」
ドラさんは目を輝かせながら持っていた剣を弟子に預ける。
「ところで、以前言ってらしたギアとは、どのような物なんです?」
ドラさんは興味ある事にはトコトン興味ある人のようだ。
「今はまだ普及していませんので、最初はスタンダードなタイプの物を作り、普及したらギアタイプも作りましょう。ギアタイプは大きさの違う歯車をチェーンが移動する事で重さとスピードが変わるとだけ言っておきますね」
ドラさんはきっと勝手にギアの開発をするだろう。
実はスタンダードな自転車の仕組みは分るけど、ギアはちょっとイマイチなのだ。
モノ作りが好きな兄がいたらなぁ、と真剣に思ってしまった。
「取り敢えず、組み立てちゃいましょう」
私はドラさんを連れて自転車用に建ててもらっていた作業場へと向かった。
それから6時間後、弟子総動員で5台程の自転車が完成。
因みに、タイヤ部分はまだゴムが出回っていない為にも植物系魔獣の素材を使用。
意外と安く入手出来る物で、ギルドへも随時受け付け扱いで依頼を出している状態。
お陰で、作業場の裏にある物置を追加で増設する位には入荷している状態だった。
「おおー!!これが自転車」
ドラさんは感動して自転車へ乗ろうとして転けました。
「ドラさん、このように乗るんですよ」
私は前世の記憶の通りに自転車に乗り軽くアクロバットをして見せた。
「おおー!!素晴らしい」
弟子さん達も拍手して大感動。
「あの、クーラーや暖房器具、冷凍庫や冷蔵庫が落ち着いたら組み立てて下さいね。私達が旅をしながら宣伝しますので」
そう宣言すると皆さん大歓声。
一人、レックスさんだけは「えっ」と言う顔になっていた。
そう、乗って貰いますよ。
自転車。
お読みいただきありがとうございます。また読んでいただけたら幸いです。




