サロンで晩餐してます
別荘にはいるとバーナードさんはすでに食事を済ませて部屋へ行っていた。私たちが外にいた時間はほんの数十分位だったのになんとも早い。
「バーナード様からの伝言です。明日の出発は10時との事で、それまでに食事と身支度を整えるようにとの事です」
ケイレブさんはそう言うと私達の食事の手配をする。
二人だけなので、大きな食堂で摂るのもどうかとレックスさんがちょっとしたサロン風の部屋へ案内してくれた。
薄いピンク色の壁紙に合わせた乙女チックな色合いのサロン。
「ここは、は・・・いえ、レンジさんの奥さんが手掛けた部屋で、この別荘を使う時に友人と過ごすようにと色々工夫して作られたんです」
レックスさんはそう言ってテーブル席の椅子を引く。
「エトラさん、どうぞ」
レックスさんは紳士のように私をエスコートし、向いの席に腰掛けた。
すると、それを見計らったようにケイレブさんが食事を運んで来る。
そこにはフワフワのオムレツとハンバーグが乗っていて、思わず子供らしくテンションが上がってしまった。
飲み物は子供らしく果実水が置かれており、中央にはデザートのケーキが置かれた。
スープはベーコンと野菜が沢山入ったもので、その隣にオリーブオイルが置かれる。
「お好みでお使い下さい」
ケイレブさんはそう言うと一礼して部屋を後にした。
「うわー、美味しそうですね」
昨夜のステーキや煮魚等のフルコースよりも、こういったファミレス風の方がしっくり来る。
だって、ホークとかナイフとかどれを使うかと気を使いながらのテーブルマナーよりも、こちらの方が気が楽だ。
だって、王女時代も残った食べ物を食べたりしていた位だからテーブルマナーなんて知らないよ。
前世の微かな記憶でなんとか食べていた位で、よくよく考えて見るとテーブルマナーを習った事がないのだ。
キリさんとはもっぱら新商品の試食を繰り返していたし、テーブルマナーとはかけ離れた食生活をしていたのだ。
「ここには俺しかいないので、気にせず食べて下さい」
レックスさんはそう言うとスプーンを取り優雅にスープを飲んだ。
バーナードさんはテーブルマナーもほどほどで、ガツガツ食べるスタイルだったけど、レックスさんはとても上品に食べるんだよね。
普通なら師匠の影響でレックスさんもガツガツ食べても良さそうなのに、生まれが良いのかな?
私はパクパクとオムライスを食べながら、そんな事を考えていた。
それにしても、このオムライス目茶苦茶美味しい。
卵が本当にフワフワで、そんでその上にかけられたキノコのクリームソースがまた美味しい。
普通ならデミグラスソースなのだろうが、今日はハンバーグにデミグラスソースがかけてあるので、オムライスはクリームソースにしたのだろう。
けど、それがまた良い。
「とても美味しいですね」
パクパクとテーブルマナーを気にせずに食べる私にレックスさんも「はい。美味しいです」と頷く。
「この料理はケイレブさんが作っているのかな?」
「確か、奥さんが料理を作られていたはずです。今は息子さん達に料理を教えているので、俺達が滞在中は息子さん達が交代で料理のお手伝いに来ているそうです。何せ、滞在中は臨時でメイドなどを雇っているので賄いの食事の準備も大変ですから」
レックスさんに言われて初めて気付いた。
そうだよね。
使っていなかった別荘に泊まると言う事は、そこを管理する為に人を雇うんだよね。
なんだかレンジさんの好意に甘えてばかりで申し訳なくなる。
「私達が普通に宿屋に泊まれば良かったんですよね」
だって、宿屋のお金も払っているのに、無駄なお金を使わせている。
「あのね。エトラさんはこの国の今の状況を良く理解していないようだけど、ここから北に登れば登るだけ窃盗や詐欺が多くなるんだ。王都を中心にね。ただでさえ魔力が切れるまでレベル上げを強要されているのに、夜も休まらなければ翌日に万全の体制でダンジョンへ挑めないよ」
確かに、レックスさんの言う事には一利ある。
「神の山へ登る前までに、必要なレベル上げはしておくべきだ。それに、エトラさんのテイムしたゴンちゃん?まだまだ強くなるよね。あれはまだ幼獣だから成獣にする為にもレベル上げは必須だよ」
まさか、ゴンちゃんが幼獣だったとは。
驚く私にレックスさんは仕方ないと言うように食事をしながら色々と説明してくれた。
※※※※※※
バーナードさんはその頃。
「前から言ってますよね。頭と何とかは使いようって」
バーナードさんを叱るのは、帰ったと思っていたキリさんだ。
「ほら、私の愛妻が作ってくれた万能軟膏です」
ポイッとバーナードへ渡すキリさんは、直ぐにポーションも取り出す。
「キリー、塗ってくれないのか?友達だろう?」
バーナードの言葉に心底嫌だと言う顔で「寝言は寝て言え」と一瞥した。
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