キリさんにチクリます
食堂は10人位が座れる位の広さがあった。
テーブルの上には既に肉や魚のメインを始め、スープやサラダやデザートとフルコースが全て並べられていた。
そして、その中央に位置する場所にバーナードさんが座っており、既に食事を始めていた。
「お前等があんまり遅いから先に食べていたぞ」
遅いと言っても別に着替えをしていた訳でもない。
ものの5分かそこらだ。
「いいか、これは冒険者の先輩としての助言だ。『冒険者とは、食える時に食うべし』いつ何時魔獣が襲ってくるかもしれない。食べなければ体力も魔力も回復しない。これは大事な事だ」
真面目な顔で自分を正当化するバーナードさん。
ここはダンジョンでも野営地でもない。
普通の民家だ。
目をパチクリとさせ、私はレックスさんを見た。
「諦めて下さい」
レックスさんの助言はそれだけだったけど、短い時間で何となく理解した。
この人に常識は通用しないと。
S級冒険者だからと、真っ当な大人のイメージを勝手に持っていたけど。
この人は未だに子供なのだろう。
「師匠は天真爛漫な所があるので」
「レックスさん、天真爛漫の意味分かってますか?」
「純粋に、思うままに行動する人ですよね」
「思うままには合っていますけど、これは既に自己中です」
明日キリさんに言って貰わなくて。
「取り敢えず、私達も食べましょう」
このままでは全ての夕食がバーナードさんの胃袋に収まってしまう。
お昼にあれだけ食べたのに、何処に行ったのやら食材。
私はレックスさんを促して、何とか夕食に有りつけた。
「明日からは使用人さんに手間をかけさせますが、一人づつお皿に盛ってもらいましょう」
それが平和な解決方法だと瞬時に悟った。
「分かりました。明日の朝からはそうするようにケイレブに話しておきます」
レックスさんはそう言うと私に最後の一個になったデザートのケーキをよそってくれる。
「ありがとうございます」
*******
翌朝
「おはようございます。食事の準備が出来たそうです」
レックスさんがドア越しにそう教えてくれる。
「おはようございます。分かりました。今行きますね」
私は直ぐに扉を開きレックスさんと共に食堂へと向かった。
そして、レックスさんが昨夜話した通りに一人づつ食卓に食事が並んでいる。
私達が食堂に入ると後ろから欠伸をしながらバーナードさんがやって来る。
「キリは何時に来るんだ?」
開口一番が挨拶ではなくキリさんの事とは。
そして、バーナードさんは食卓を見て
「何で一人づつ分けてあるんだ」
と、使用人に問いかける。
「バーナードさん。共同生活とはお互いに協力し合い、食事も分け合い、仕事を分担する事です。バーナードさんは食事を見て、自分がどれ位の食べても良いか分かりますか?」
これは今後の為にも大切な事だ。
あの勢いで食べられていたら、何時か大変な事になる。
「食べれる時に食べるがモットウだ」
バーナードさんはそう断言する。
「そんな子供みたいな事ばかり言っていると」
「言っていると?」
「大親友のキリさんにちくりますよ」
私の最後の言葉がバーナードさんにクリティカルヒットした。
「グッハ、頼むキリには言わないでいてくれ。俺の唯一の心の友なんだ」
キリさんはそんな事は思ってもいませんがね。
今後はキリさんの名前を印籠にバーナードさんを調教しよう。
お読みいただきありがとうございます。また読んでいただけたら幸いです。




