親友じゃない
「ここからは大切な質問だが、転移魔術にはどれ位の魔力を消費する?」
バーナードさんの質問に一瞬頭が停止した。
「すみません。あまり意識していませんでした」
ダンジョンの途中で帰っても、また同じ所からスタバ出来るので、途中から商会の仕事も併用しながらダンジョン攻略をしていた。
休息を取ると魔力は回復するし、寝ないまでも、身体を休めれば少しづつ魔力は回復する。
もともと魔力ではなく神力を持っていた為に、回復するスピードも普通の人よりは早いから、魔力をどれだけ使うかなんてあまり意識していなかった。
キリさんからも、何時も魔力の残量だけ聞かれていたし。
「はぁ~、キリは何を教えていたんだか。まぁ、親友のフォローをするのも親友の役目だから、俺がフォローすれば良いだけの話だが」
バーナードさんは何気にキリさんとの親友説をアピールしてくる。
この人、本当に友達いないのかもしれない。
「俺もレックスにはその辺はしっかりと教えて来ていた。そうだろうレックス」
レックスさんは嫌な顔になりながらもバーナードさんに同意する。
「今日はさしずめ転移魔術で帰る拠点決めと今後の予定を説明しよう」
バーナードさんはドヤ顔でそう宣言するけど、本当に大丈夫だろうか?
「あの、今後の行程ですが、(不安なんで)一層の事キリさんを呼んで決めましょうか」
私がバーナードさんにそう提案すると、バーナードさんの目がキラキラと輝く。
やっぱり友達いないのかも。
「そうだな、じゃあ、今日は拠点決めをして必要な備品の調達に行こう」
何処となく、ステップを踏みそうな位に軽やかに歩くバーナードさん。
キリさんには悪いけど、こんな危なそうな人を紹介して来た責任をとってもらわなきゃならない。
「では、キリさんに連絡しますね」
実は昨年のダンジョにレンジさんから通信機能のついたピアスを頂いていた。
仕組みは良く分からないが、ピアスに触れながらキリさんと言うとキリさんと通信出来る仕組みになっている。
因みに、レンジさんとも通信出来るらしいが、仕事以外では使用していない。
恐れ多くて。
私は早速ピアスに手を添え「キリさん」と唱えた。
すると、直ぐにキリさんが応答する。
「エトラ様、どうされましたか?」
キリさんの後ろからリナさんの声が聞こえる。
「えっ、エトラちゃん?」
リナさんの声、一日振りだが懐かしくもある。
「あの、今バーナードさんと会いまして、今後の行程を組むのに明日同席して欲しいのです。大丈夫でしょうか?」
特に、大きな商談はないけど、毎日の業務はある。
いくら仮のボスだと言っても横柄に「明日来い」とは言えない。
「バーナードですか。まぁ、お気持ち理解しました。私は大丈夫ですのでエトラ様の良い時間にお連れ下さい」
やっぱりキリさんは話が早い。
「うん。じゃあ、明日の8時にキリさんの家の書斎で」
「了解致しました」
キリさんは音声でも紳士的に対応する。
「お待ちしております」
ただ、音声なだけに、気乗りしていないのは何となく分かった。
「何、今俺の親友のキリと話をしているのか?」
バーナードさんが大きな声で反応する。
そして、ピアスの向こう側から「親友じゃない」とボソリとキリさんの声が聞こえた。
やはりバーナードさんは友達いないのかも。
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