護衛依頼、レックス視点
ウエストンは今日も賑わっていた。
最近、特に景気が良いのはルノー商会と言うだろう。
そのルノー商会の支部の最上階で文句を垂れながら作業をする人物がいた。
現在朝の6時、朝食も食べていない内から師匠に「空腹は体の限界を感じる最高のスパイスだ」と、意味不明な事を言われ魔石制作をさせられている。
今日で魔石制作も早4日目、コツも掴めて来た。
魔力を一定の量を時間をかけて蓄積させて行く作業だ。
魔力量を一定にさせないと魔石の質が落ちてしまう。
かと言って短時間で魔力を多く注ぎ込むと上手く魔石にならない。
このコツを掴むのにニ日もかかった。
その間も師匠の魔力操作の講義は続いたのだが。
師匠との付き合いも、もうすぐ三年目になるが、未だに掴めない人ではある。
そう言えば、師匠と出会って一年目の頃に、友人が結婚したと嘆いていたなぁ。
独身貴族仲間だと思っていたのに発言は、既婚者の俺からすると何も言えなかった。
そんな師匠には未だに春は来ない。
いや、普通にこんな師匠と結婚してくれる奇特な人はいるのだろうか?
自分が異性だったら師匠みたいな人との結婚は考えられない。
きっと家庭が破綻するだろう。
そんな事を考えながらでも作業が出来るようになって来た。
師匠は人格破綻者かもしれないが、冒険者の師匠としては最高の師匠だ。
師匠のお陰で魔力量も宮廷魔術師の倍以上。
魔力量は今はもう直ぐ一万になる勢いだ。
「今日はここまでにしよう」
突然師匠が俺の作業を中断させる。
「待ち人が来たようだ」
そう言って席を立つ。
「依頼人を迎えに行こうか。そうでないと何日も待たされそうだからな」
今回初めての同行依頼だ。
師匠は基本的に拘束される内容のクエストを嫌う傾向にある。
商人や貴族が移動する時に護衛を雇うが、そういった内容のものは受けた事がない。
それなのに、今回の護衛依頼は今年が終わるまでと長期の護衛になっている。
護衛対象は今ルノー商会と懇意にしているカーター商会の会頭の護衛だと言う。
報酬内容もイマイチ教えて貰っていない。
が、師匠は滅多に受けないはずの護衛依頼をあえて受けて、そして、そんな面倒な依頼人と早く会おうとしている。
珍しいこと尽くしだ。
「今、カーター商会の南にある店舗にいるようだね」
師匠がここまで正確に感知すると言う事は、カーター商会の会頭とはそれ程凄い魔力の持ち主なのだろう。
伊達にステータスオタクではないと言う事だ。
「依頼人に逃げられる前に急いで向かうぞ」
師匠に促され、俺は作業途中の魔石を諦めて立ち上がったのだ。
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