キリさんのお宅に訪問
北へ40キロ行った先にある町は、ウエストンと言う南部で一番大きな都市だ。
勿論カーター商会として店舗を2軒持っており、何回か行った事がある。
行く気になれば転移の魔術で飛べるけど、キリさんには何処でも行けるなんて教えてはいないので、多分行った先からホームへ、ホームから前回行った先までの転移魔術と思っているはず。
まぁ、そう勘違いしているのをあえて訂正はしていないんだけど。
「では、荷造りして明日にでも出発しますね」
「分かりました。そのように言伝します」
キリさんはそう言うと恭しく頭を垂れる。
「今日はリナさんとルアンに会って来ますね」
「息子にですか?」
「はい」
ルアン君は今年で2歳になるワンパクな男の子だ。
キリさんは知らないだろうが、7歳以下の子供は霊や精霊や神様との親和力が高いらしく、たまにクロードさんのお使いをしている時があるのだ。
勿論、リナさんも知っているんだけどね。
「今日は自宅にいますか?」
「はい。妻は身重ですので、家におります」
実は、キリさんは一応貴族の出らしいが、長男ではないのでリナさんの家に入り婿みたいな感じで入っている。
家名はキリさんの方の名前を使っている。
勿論、ウシオさんも一緒に暮らしていて、ウシオさんは何故かキリさんをめちゃくちゃ気に入っていた。
一緒に暮らし始めた頃から毎晩のようにお酒を一緒に飲んでいるらしく、あの豪酒と思われたウシオさんを余裕で酔い潰した事は、キリさんの意外な一面として記憶に新しい。
「では、早速お邪魔しますね。それと、連絡は定期的にしますので、商会の方を宜しくお願い致します」
キリさんが優秀なお陰で私はこの三年間を有意義に過ごせた。
もう手放せない人材と言っても良いだろう。
キリさんは優秀なので、私がいなくても全てつつが無くこなしてくれるはず。
私は何の憂いもなくこの旅に挑む事が出来る。
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「リナさん、ルアン君、こんにちは」
私はキリさんのお宅に突撃訪問していた。
元々あった倉庫のような建物を壊してキリさんが屋敷を建てた。
正直、貴族の館と言われても何ら遜色がない程立派な建物だ。
目の前には整備された庭があり、庭の端にはブランコもある。
あのキリさんが建てたとは思えない位にメルヘンな作りだ。
因みにだが、リナさんはあまり繊細な事は不向きらしく、家の中の家具の配置も全てキリさんが手配したのだと言う。
もうここまで来たらどちらかと言うとキリさんってお母さんみたいな人だと思った。
正面玄関の鐘を鳴らすと執事風の見習い猟師さんが現れた。
「チース。ごきげんようエトラさん」
ウシオさんの所にも何度も顔を出している為に猟師さん達とも顔馴染になっている。
何故執事が見習い猟師さんかと言うと、ウシオさんが堅苦しいのが嫌と、自分の部下を教育すると言う名目で自宅で働かせているらしい。
「リナさん、じゃなく、リナ様とルアン様なら二階の書斎にいらっしゃいます」
何処となくぎこちなくそう言う執事さん。
うん。
今日も勝手に揚がって行ってくれと言う感じだろう。
「お邪魔します」
私はそう行って屋敷の中へと入っていった。
果たして、これで執事の意味はあるのか?
何時も疑問に思ってしまう。
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