クーラーは快適です
赤く腫れていた皮膚が綺麗な状態に戻っていく。
良かったーと一息つくと
「エトラさんは治癒の魔術も使えるのだね」
とレンジさんが嬉しそうに言う。
「あっ、えっと、あの、そう、ヤマト島の巫女の能力の一つです。ちょっとした怪我位しか治せません」
私は焦りながらそうレンジさんに弁明した。
基本的に、治癒や回復系の魔法は光属性と水属性になる。
私は魔術の勉強もしていなければ才能もなく、魔力量も平均以下ということになっているのだ。
そんな私が秒で治癒をしたなんてことが知れたら大変なことになる。だからこれは巫女修行で得た特別な力と言うことにしよう。
「そうなのですね。分かりました」
レンジさんは素直に納得してくれる。
ありがたい事だ。
「レンジ様。私の失敗のせいで申し訳ございませんでした」
キリさんはレンジさんの所へ駆け寄ると平謝りをする。
勿論、レンジさん至上主義のキリさんがワザとそんな事をするとは思えないので、これは事故だ。
「大丈夫だよ。ほら、この通り綺麗なものだろう」
そう言ってレンジさんは火傷をしたであろう腕をキリさんに見せる。
「本当に良かったです」
キリさんはホッとしたように胸を撫で下ろす。
「ところで、エトラさん。このお店は外と比べてとても涼しいようだけど、これも何かの魔道具を使っているのかな?」
レンジさんはニコニコと楽しそうに私を見た。
これは、私の快適な冷蔵庫と冷凍庫計画が早く実を結ぶ予感がする。
「はい、実はですね冷蔵庫と言う食べ物を冷やす魔道具と冷凍庫と言う食べ物を凍らせる魔道具を作成している最中でして、その副産物としてクーラーなるこのような魔道具を作ったのです」
私はレンジさんを部屋の中央に置かれている穴の空いた箱を示して説明する。
「中には凍りの魔術を発動させる魔法陣が刻まれており、氷系の魔石を原動力に使用しております」
私はそう説明してその箱の側部分を取り外して中を見せた。
「なるほど、このような発想はなかったよ。是非我が商会と共同で開発を進めないかい?順調に行けば来年の夏前には国中に普及出来るだろう。それに、その逆のパターンで暖房を取る魔道具も出来ると思うんだよ。これは世界が変わる発明だ」
突如饒舌に話し出すレンジさん。
流石、商業ギルドのギルマスが一目置く人なだけはある。
既に商人の顔になっていた。
「勿論です。そうおっしゃって頂けると有り難いです」
正直、今は冷蔵庫や冷凍庫の素材選びで苦戦していたのだ。
つまり、アイデアがあっても商品化出来ないでいる状態が続いていたのだ。
「後でキリさん経由で連携を取らせて下さい」
これで念願の冷蔵庫と冷凍庫が手に入る。
熟成肉さながらの環境も一歩間違えれば腐ってしまう。
これで、衛生的に食べ物を保管できると元日本人的には嬉しくもある。
別に潔癖ではないけど、色々と怖いじゃない。
これで鮮度を保てて食品ロスにも繫ると思うととても嬉しい。
「宜しくお願いします。レンジさん。キリさん」
私は嬉しくなり二人にお礼を言った。
そして、再びクーラーの装置の側部分を設置し直す。
そんな私の後ろでレンジさんがキリさんの肩を軽く叩いて嬉しそうに声をかけていた。
「確認は取れたよ。ありがとう」
何の確認なのか良くは分からないが、レンジさんが嬉しそうで良かった。
お読みいただきありがとうございます。また読んでいただけたら幸いです。
追伸、誤字訂正ありがとうございます。感謝感謝です。




