晩餐会への出品
「ふむ、これはなかなか珍味だ。どれこちらは?」
レンジさんはなんの躊躇いもなくウニとイクラをペロリと食べた。
「おお、これもなかなかだ。これ程の味の食材をムザムザと捨てていたとは、何とも惜しい事をしていたものだ」
箸を置くとレンジさんは私の方を真剣に見る。
先程までの温和な顔ではなく、仕事をする男と言う感じの真面目な顔だ。
「この食材のお披露目を是非城の晩餐でしたいのだが、可能かな?」
「お城の晩餐でですか?」
下町の食堂程度の想定なのに、まさかの城の晩餐ときた。
「丁度秋の始まりに大掛かりな晩餐会がある。伯爵以上の貴族が一同に集まり陛下に今年の作物の出来や新商品などを報告しつつ、裏では貴族同士の生産物なのど取引をする場でもある。今年の晩餐の料理の案を料理長に求められていたのでな、丁度お披露目には良いと思うんだよ」
確かに、レンジさんの言う事には一理ある。
貴族を相手に出来れば売上も大きいが、ケチな貴族も多いのが現状だ。
どうしたものかと思案していると
「私の商会が仲介に入ろう。踏み倒すなどと馬鹿な貴族はそれでいなくなるだろう」
レンジさんはテレパシーが使える人なのだろうか?
「何やら、不穏な事を考えているようだが、これでも私は加護持ちだ。固有の特殊スキルは持っていないよ」
「いえ、そういうところが既に不信感を持たせるんです」
思わず心の声を暴露していた。
あー、今日は穏便に行こうと思っていたのに、私のバカ。
やらかした事に深く反省する。
「ハハハ、まぁ、そこは年の功と言うものだ。伊達に商会の会頭を長年やっていないよ」
「そう言う事にしておきます。それと、漁師さん達の収入にもなりますので、是非出品させて下さい」
きっとウシオさん達にも良い収入源になるはず。
ニコリと微笑むと商談は簡単に成立した。
後はキリさんと詳しく調整すれば良いとの事。
私は一息ついて茶碗蒸しと味噌汁に手を付ける。
「少し冷めてしまったようですね。新しい物をお出しします」
私はキリさんに目配せする。
ぬるくても美味しいけど、せっかくなら温かい状態で召し上がってもらいたい。
実は、この店舗バレない程度に氷魔法で涼しくしている。
冷蔵庫や冷凍庫を作る為に描かれた魔法陣をこんな所で有効活用しているのだ。
少々店舗の広さがあり、出力が足りない為に気持ち少し夏にしては涼しい感じのレベルだけど、汗だくで食事、それも生物はないと思って流用させて貰っている。
そんな事を考えている内にキリさんが新しい茶碗蒸しと味噌汁を持って来てくれた。
そして、レンジさんの前に並べている時に茶碗蒸しの器にレンジさんの腕が触れる。
「あつっ」
思わずレンジさんが手を跳ね除ける。
「大丈夫ですか?」
私は慌ててレンジさんの所へと駆け寄る。
右の前腕部分が赤くなっており、このままでは火傷痕が出来るのは必須だ。
私は咄嗟に癒やしの魔術を発動させる。
勿論咄嗟の事で神力を魔力に変換し忘れてそのまま使用してしまった。
「これは」
レンジさんは驚きを口にするが、賓客に火傷をされてはいけないと焦る私には聞こえていなかった。
「なんと、これ程とは」
だからレンジさんの口角が嬉しそうに上がるところも見えていなかったのだ。
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