ランドセルに詰めた大きなお世話
「だから早く良い人見つけなさい」
平日の夕方近く。せっかくの有給消化の時間を母との電話――ほぼ一方的に小言を言われる――に費やすはめになるとは昨日の私は予想もしていなかった。
ベランダでぼんやりしながらひたすら相槌。のらりくらりと躱す。価値観の相違がきつい。わかり合えないことがわかりきっているから右から左へ流してやり過ごすしかない。
「聞いてるの?」
「聞いてる」
聞いてはいる、まったく届かないだけであって。
ふと視線を下にやれば色とりどりのランドセルの群れ。下校する子どもたちの華やかなこと。私たちの頃は赤か黒、いても茶色くらいしか無かったのにね。
「そういえばさ」
「はい?」
「私、ランドセルの色は黒がいいって、ねだったじゃん」
「ランドセルが何?」
「でも母さんもばあちゃんも女の子は赤だって、黒じゃおかしいって、私の意見は無視してさ。結局六年間我慢して赤いランドセル背負って学校行ったんだよ」
「何の話を……!」
「そのこと、今でもめちゃくちゃ根に持ってるから」
「はあ!?」
「こっちも都合あるからもう切るね、じゃ」
「待ちなさ……、」
返事を待たずに通話を切った。電源も合わせて落とす。
いい加減子離れしてくれ。こっちはもうとっくに親離れしているんだから。思い通りにしようとするな。母さんには母さんの願望があるみたいに、私には私の欲望がある。
きゃあきゃあと遊びながら歩いていく子どもたち。
それぞれのランドセルのように、数多くの選択肢の中から自分の好きを選べる人生が送れるといいね。エゴ丸出しで思いながら、私はすっかり冷めてしまったコーヒーを啜った。