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第五十九話 集う戦力



 話合いは、あの後もしばらく続き、小会議室から出るころにはすっかり陽が落ていた。

 明りの灯る廊下をオレとセシリアが歩く。


「あーぁ。――結局、引き受けることになっちゃったわね」


 残念がる言葉と裏腹に、暗い雰囲気は感じない。声のトーンは明るく、セシリアはむしろ晴れ晴れとした様子にみえる。


 確かに彼女が口にしたように、ノーガス村で初めて会ったリックに聞かされた通り、王家を守る象徴としてセシリアが動くことになった。ロイドの描いた絵の通りに(こと)は進んでいる。


「あぁ、そうだな。だが、得たものは大きい」


 セシリアが勇気を出して、話を突っぱねた。

 自分のやりたいこと、想いを相手にぶつけた。

 そして、その覚悟を見せた。


 そのお陰で、マージャ救出策の情報提供やオレの身体問題の協力を、こちらからからお願いすることなく、そしてなにより後回しにされることもなく――対等な取引きとして成立した。


「これでアイツらも本気で情報を集めてくれるだろう。オメーの頑張りのお陰だな」


「ジェリドも、ちょっとだけ……。ううん、なんでもないわ」


「なんだ? そりゃ」


 ――――――


 会議の内容と、今後の方針を話すため、皆が待つ部屋へと戻った。

 今夜はここリンガルの街、ダンバー騎士団寮で二部屋に分かれて泊まる。明日はここに集う王家側の戦力と顔合わせをしたのち、昼からは自由行動となる予定だ。


「国を二分する大きな戦いっすね、姐さん」


「そうなりそうね。でも、どんな戦いをするかは、わたしたちで決めることにしたの。正面からぶつかって良いのかどうか見極めなきゃね」


「…………」


 ――大きな戦い、ねえ。


 オレはロイドに情報を流した。

 ムーア三兄弟が捕え、今も彼らの拠点に監禁されている、ランディ・ヨーンから得た情報を。宰相ダライアスと、隣国が連携している可能性があるのだ、ということを。


 王国内の兵は敵味方の関係なく、極力減らしたくない。この考えはロイドとオレで一致している。王国の戦いの疲弊に乗じて隣国に仕掛けられると、為す術がない。


 ――どうしたものか。


 食事は部屋で弁当をつついた。食堂が一階にあるが、セシリアが皆に姿を見せると騒がれることは容易に想像がつく。食事と言っても、オレの場合は動いて減った魔力をセシリアに触れて補充するだけだ。だか、そうするうちに、急に眠気が襲ってきた。


 流石に限界だな。連日、多くのことがあり過ぎた。

 先の事は気になって仕方がないが、いま考えても答えが出そうにない。考えて組み立てるのは明日、こちらの戦力を実際に見てからだな。


 この日は魔道具でクレアに状況を伝え、早めに寝ることにした。


 ――――――


「セシリアさまーっ! 朝なのですよー!」


 アイラの元気な声が部屋に響く。

 オレはそんな彼女がモゾモゾしだした時から目覚めていた。よほど疲れてたんだろうか、よく眠れた。


「う、うぅぅーん。おはよ、アイちゃん」


 セシリアが体と腕を目いっぱい伸ばしながら起きてくる。――良かった、ちゃんと起きてくれた。当たり前のことなんだが、安心する。

「着替えるからジェリドはあっち向いてて」と、なにを今さらなのだが八の刻には準備を終え、男性陣、それにロイドにリックとも合流し、ダンバー騎士団の屋外訓練場へと向かう。ここリンガルの街に合流している騎士たちは既に訓練場に集まっていた。


 寮の扉をあけ、一歩踏み出したセシリアを出迎えたのは地響きを伴う歓声。皆が拳を振り上げ、前方の誰かが自然に跪く。そして後方へと伝播する光景は、まるで波のようだった。


 見知った顔もちらほらと。そのなかから鎧に身を包んだ一際(ひときわ)大きな男たち三人が出てきた。そしてセシリアの前に跪く。全員が王国騎士団の大隊長だ。


「我、ダグラス・ハミルトン以下、大隊員。全員、貴女さまに忠誠を尽くすもの。お待ちしておりました。――今もあの時のお姿と慈愛に満ちたお言葉はこの胸に刻んでおります」


 ――え、っと。ハミルトン大隊長!? どういうこと? ジェリド


 ――あー。そう言えば打ち負かしたとき、なんか面堂くさそうなこと言ってたような気ぃするわ。


「もちろん、我々もハミルトン大隊同様、貴女さまと共に王家のため、参りましょう」


 ハミルトン以外の大隊長も応じた。


「二大隊はともかく、現在ここダンバー領を統治するハミルトン大隊、それと、元ダンバー騎士団の面々はセシリアさんの指示しか受けないようでして……困ったものです」


 リックが眉をハの時にやれやれといった表情で、肩を(すく)ませる。


「おい! ロイド! セシリアの代わりはいくらでも居るとかぬかしておいて……。ありゃハッタリか。おめー、こんな状況聞いてねーぞ」


「はて……なんのことでしょう?」


 ロイドは眉ひとつ動かさず、首を傾げてみせた。その隣で、ぷっ、くくくっ。と笑いを(こら)える無駄にイケメン野郎リックこと、リカルド・フォン・タンジェリン。


「騎士団の大隊だけでなく、何故かこの街の工業ギルドはじめ皆が、(かたく)なに、セシリアさんを待っているかの様子。一応は動いてくれるんですが、渋々といった感じでして。――なのでボクたちも途方にくれていたのですよ。……相手にするときは、こちらの弱みになりそうなことを見せられるか! でしたっけ? ごもっともです。ジェリドさん」


「…………」


 ロイドたちがこの街に逃れ、王国の指揮下で動かそうと試みるも、リンガルのまとまりがセシリア中心にあると見越して、ロイドは無理やりにでも彼女を巻き込む手にでた……といったとこか。


 ――確かに、どう見てもセシリア抜きで成り立たん戦いだ。

 セシリアに中心になって動いてもらう為なら、ロイドから彼女へどんな条件を提示してでも構わない。それぐらいの案件だったんじゃねーか。


 ロイドのやつ。この街の現状、あえて話さなかったんだ。

 ――なんだか昨日の話し合いでも嵌められた気分だぜ。覚えてろよ、ロイドのクソたぬき。



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