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08 期限

 パーティを組んだ齊藤さんと田宮さんは、パーティを組んだと言うのにあまりこちらには話しかけても来なかった。いつも二人でひそひそと何かを話している。まあ、俺たちの持っている情報が少なすぎて当てが外れたのかも知れない。


「狩に行こうか」

「はい」


 だいたい齊藤さんが言い出して、みんな従う格好。齊藤さんはレベルが18だが、これは職を変えたせいらしい。職業を変えるとその都度レベルが3下がってしまうそうだ。二回変えてのこのレベルなので、経験値としてはレベル24相当ということだ。田宮さんは職を変えずにレベル22となっている。


 齊藤さんたちはこの辺でスポーンするエネミーのことをよく知っていて、インフォマたちの案内もなく適度なレベルのエネミーと戦うことができた。おかげで俺はちょっといい手甲と太刀をゲットした。レベルもちょっと上がった。しかし肩身は相当狭くなった。


「武勇の波動!」

「英雄の閃光!」


 二人のこれでだいたい片付いてしまうからだ。俺は適当に囮になったり、削りきれなかったときに手裏剣を投げるだけ。そのくせ、他の職のはなかなか出ない装備品が忍者用は出るので、おいしいとこばかり取って行くような状態になっている。


「……チッ、またか」


 今度はちょっといい脚絆が出た。ヤッターと思っても口に出せない雰囲気。齊藤さんは明らかにイライラしながらそれを俺の方に投げた。


「もっと他のプレイヤーがいるところに行きたい。情報が欲しい」

「でもエネミーのレベル的には合ってるんじゃ? ここなら街も近いし……」

「時間を無駄にできない! ログアウトできないと……」


 ちょっと齊藤さんの形相が必死すぎた。確かに早くログアウトしないと、何日もゲームばっかりやってる人みたいになってしまうが……。


「でも、この世界だと腹も減らないし、眠らなくてもいいみたいですし。あんまり焦らなくても」

「あんたまだ気づかないのか! ステータスの右下を見ろよ!」


 俺より年下っぽい人に怒鳴られた……。これだから若いもんは。右下?


 ステータス画面を開いてよく見ると、右下に縦長の細いラインのような、ものすごく長い試験管のような模様がある。中には蒼い水が入っているグラフィック。「命の水」ととても小さな字で横に書いてあった。ひっそりし過ぎて気づかなかった。


「これが俺たちの命の残りなんだ。毎日毎日じりじり減って行ってる。これが尽きたらたぶん死ぬ」

「えー、そんな。なんでわかるんです?」

「インフォマが『滅ぼす者』が命の水を少しずつ吸い取り、尽きれば死ぬと言ったんだ。死んでログアウトできたら再ログインすると約束して自殺したやつも戻ってこない。このゲームはクリアしないと出られないデスゲームなんだ……」


 えー……。


 サタンとのレベル上げが平和すぎたのでピンと来ない。そんな殺伐としたゲームだったとは。


 自分の「命の水」の量は八分目といったところだ。日時を確認するとあれから4日ほど経っているので、このスピードで減って行くなら、あと二週間くらいは持つだろう。


「おい、忍者、お前ははっきり言って役に立たない。どこかに誰かプレイヤーがいないか一人で探しに行け。いたら知らせに来い」


 えー……。はっきり言うなあ。でもそれは俺も考えていたことだった。経験値泥棒をしていい気分でいられる程、太い神経してないんだ。サタンも通常攻撃が強いから壁役が二人もいれば充分戦えるだろうし、何しろかわいいからそれだけでパーティに置いておく理由にはなる。


「……わかったよ。パーティ解散はしないでくれよな」


 文句は言わない。弱職が迫害されるのはMMOをやっていればよくあることだ。しかしなんつーゲームバランス。こんなゲーム売れないぞ!


 街から出る。いつもの荒野。やみくもに歩いても仕方がない。


「ニド、他のプレイヤーがいるところがわかったりしないのか?」

[わかりますよ]

「ええっ! わかんのかよ!」

[聞かれなかったものですから]


 なんて自主性がないんだよこいつは……。


[プレイヤーがいるかいないかと人数だけ、マップからわかりますよ。『地域探索』と発語してください]

「地域探索」


 ぱっと半透明のマップが目の前に広がる。これがあれば楽だったんじゃね……? でもなんだかんだでニドがこれまでもこのまま進めとかもう少し曲がれとか言ってナビをしてくれたので支障がなかったと言えば言える。実際、レベル上げ中は地理的なことはどうでもよくて、エネミーのレベルが見合っているかの方が重要だったから、これを開く必要もなかったのだ。


[指を街やフィールドなどのマークに合わせてください]


 言われた通り人差し指を向けると、数字がマークの横に現れた。0。この街には誰もいない。


 その調子で見ていく。てか、別にじゃあ俺だけ行かなくてもよくね? これ見て「ここに行ってみよう」で。齊藤たちがマップのことを知らないとも思えなかった。俺がいらない子だから厄介払いしたかったのか。ううむ。


 まあいい。とりあえず近場で人がいるところを探そう。次々に指差すと、「3」と出た街があった。そう遠くない。ちょっと行って覗いてみるか。


 さて歩き出すかと顔を上げると、上げた先にサタンがいた。


「お?」

「あんなやつらといたくない。背中を出せ」

「サタン様のしもべは俺だけってか?」

「黙れござる」


 認めてくれる人がいると言うのはいいものだな。特にこんな可愛い女の子だとなおさら。例え扱いは馬だとしても。









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