05 特殊スキル
「『妨げる者』」
ビタッとガーゴイルたちが動きを止める。だがレベルの高い個体から順に金縛りは解けてしまう。
「ほら! 早く」
背中におぶったサタンに頭を叩かれ、一目散に走り出す。息の続く限り走りに走って、もう走れないというところでサタンがぐいとちょんまげを引っ張った。馬かな? 俺。
「よし、よくやった。3レベル上がったぞ」
「確かに効率はいい……けど……」
キャラの特性で、現実世界とは比べ物にならないほど身軽で長く速く走ることができるが、それにしても……。
「なんでサタン様は自分で走らないんだよっ」
「うるさいな! お前に乗った方が速いからに決まっているだろう!」
むちゃくちゃだ。かわいくなかったら捨てている。それにしても、サタンのスキル「妨げる者」もこんなに使えないとは思っていなかった。敵を金縛りにするだけのスキルなのだ。しかも敵のレベルが高ければ一瞬の足止めにしかならない。ディレイも10分くらいはあるようだ。
そこで編み出したのがこれだ。「敵からの逃走に成功した時貰える経験値でレベルを上げる」。
「よいではないか。私の『妨げる者』とお前の『影下跳梁』があれば、到底敵わないレベルの敵から戦わずして経験値が取れるんだ」
「まあな……」
「ところで、レベル7になったぞ。職業は変えるのか?」
「そうだったな」
ステータス画面を見てみる。確かに右下の「職業」マークがキラキラと光っている。そこに触れる。ログインした時に見た職業がまた目の前に開く。少しよく見てみよう。
剣士、魔法使い、弓士。ステータスやスキルも見られるようになっていた。全く気が付かなかった。剣士のスキルは「武勇の波動」。魔法使いは「メテオレイン」。弓士は「一転突破」。カタカナと日本語が入り乱れている……。統一しろ!
「どれが使える職業なんだ?」
ニドが淡々と言った。
[剣士は体力が忍者より多いですが敏捷が低いです。武勇の波動は全体攻撃もできる強攻撃ですね。魔法使いは体力はサタン様と同程度になります。中距離魔法が使えるので比較的楽にレベルは上がりますよ。弓士は忍者より少し体力は劣りますが、遠距離攻撃なのでほとんど問題になりません。一転突破は敵の急所を必ず射ることができるスキルで]
「つまり?」
[まあ、忍者以外はどれも使える職業ですよ]
目の端にサタンがまたプルプルしながら笑いを堪えているのが見えた。なんだよ畜生。
「じゃあ、いいっ! このままだ!」
[変更はなしで?]
「ああ。俺はそういうマゾプレイが好きなんだよ! 使えねえって言うんなら使ってやらあ!」
[……もの好き……]
「お前はどうすんだよ。変えんのか?」
サタンに水を向けると、サタンは首を横に振った。
「なんで? お前のスキルだって使えねーだろ? 天使にでもして名前も変えたらいいだろ! ミカエルとかラファエルとかさ」
「いやだ。別に困ってないし、弱くもない……」
「弱くないって……」
サタンが手を胸の前で組むと、黒い渦のようなものが現れた。ある程度それが大きくなったところで少し離れた木に放つ。ドカンと音がして黒い渦が霧散し、木の幹が大きく抉れてみしみしと倒れた。まあまあ太い木だ。
「………えぇ……」
「これが通常攻撃なんだ。弱くない」
「ひどい!!」
ゲームバランスってものがあるだろう。俺なんか手裏剣でチクチクするか太刀で切り付けるしかできないのに……。
「ただ、見てわかったと思うが発動までに時間がかかる。だからお前がいると」
そこまで言ったサタンが急に口をつぐんだ。ま、まさか……
「俺がいると?」
追い討ちをかける。言われたいッ……こんな美少女に言われてみたいッ……。このセリフの続きを!!
「や、役に立つ……気持ち悪いな、こっちを見るな!」
「へへ」
「お前が単品で役立たずなのは忘れるなよ」
「はいはい。さあ次に行くでござるよ」
まごうことなきクソゲーだが、これはこれで楽しい。できれば「役に立つ」じゃなくて「助かる」とか「頼りになる」とか「かっこいい」とか「好き」とか「抱いて!」とかだと良かったと思うが、まあいい。