27 帰還
カチリ、と鍵の回る音がした。
「あ?」
左肩を振り返る。ニドがいない。暗い、夜中の車の音と乾いたアスファルトの匂い。
手の中には家の鍵が握られていて、自分でそれを鍵穴に入れて回したところなことに気が付いた。くたびれたいつものスーツ。切れかけた蛍光灯、ボロい単身用アパートの、外廊下。
「は?」
ポケットのスマホを取り出して画面を見る。ゲームを始めた日と時間に戻っている。
夢だった?
過労死寸前の精神状態が見せるやつ……てか?
「こんなはずじゃ無かった」
急に聞き覚えのある声が後ろから聞こえて、慌てて振り向くと、外廊下の手すりに女の子が腰掛けていた。ない胸が強調される服と、足が丸出しのショートパンツ……。
「サタン」
まさか現実世界でもそんなコスプレを……悪くない。全く悪くない。むしろイイ。奇跡の再現率。
「あのゲームは私が作ったんだ」
「は?」
「私が、暇を潰すために。人間たちが『命の水』が尽きる前に私を殺せれば人間たちの勝ち……」
「ああ。あのゲーム……本当に、プレイしたんだよ……な?」
「………お前たちに知恵の実など与えなければと思っていた。お前たちはろくなことをしない。醜く、利己的で、愚かだ。ものを壊してばかり……」
「??」
「でもお前は最後まで私を庇おうとした。私はお前が傷つくのを見たくなくなってしまった。お前は私がお前たちに知恵の実を与えたことを、優しさだと言った」
「……てか、お前が作ったって、スゲーな!」
「私のために死にかけても私のそばにいると言った。お前は馬鹿だったが、知恵でもって想定外のクリアをした。私は後悔できなくなった。お前という人間のせいで、私はまだ改心し天使に戻ることができない」
「はは、なりきりもスゲーよ。あのさ、俺、本名は畑中恭介って言うんだ。今度、同じゲーム一緒にやらないか。ID教えてくれれば入れとくから」
「ふふ。そうだな。今度は命懸けじゃないやつをやろう」
「おう!」
「私がかつて知恵の実を与えた者の子孫よ、私の罪の果実よ、私はお前を誇ろう」
サタンの背中から、大きな黒い翼が現れた。
「????」
そして彼女はにっこりと微笑むと、そのまま夜の闇の中に飛び立ってしまった。




