16 増殖
サタンがどれだけ逃げたとしても、俺には「飛天」がある。居場所や状態を知ることができる。
「『飛天』」
ぱっとマップが開き、光点が点滅する。サタンはまだ死んでいない……。
さよなら、か。
命の水のゲージは三分の一を切っている。本当に彼女を殺して祭壇とやらに捧げなければいけないんだろうか。まあ、どうもそのようだ。認めるしかない。
サタンを殺してこの世界を抜けるか、この世界で死ぬのか。何人いるのか知らないが、閉じ込められた人々はみんなこのゲームがクリアされるのを待っている……。
「ニド、『飛天の書』は忍者にしか修得できないのか?」
[そうです。しかもレベル35以上の忍者に限ります。忍者をそこまで育てるのは並大抵ではありません]
「そうだろうなあ……」
俺だってサタンがいなければこのレベルにはなっていない。忍者というのは、およそエネミーを倒すようにできていないのだ。何か恨みでもあるのかと思うほどに。
さよなら、かぁ………。
「さて……」
とりあえずなんとなくの習慣でダンジョンを探す。レベルでも上げよう。逃げることしかできないから、大して経験値は入らないが。
「このダンジョンはレベルはどう?」
[40前後なのでよいのでは]
「ふん……」
全然心が踊らない。入って適当に進む。サタンを背負っていないから、身軽さ、俊敏さが驚くほどだった。ただ走るだけでもたいていのエネミーを置き去りにできる。レベルが上がる。36。
「早いなあ」
[ピュグマリオンはかなり経験値がありましたからね]
「もしかして忍者みたいに、後追いで付けられるスキルは結構あるのかな?」
[ありません。ベータ版ですから]
「急に現実かよ」
一番奥まで着いてしまう。石碑……。一応確認する。「地の果の扉を開けよ」。あの女子5人組が見つけていた文言だ。
「うわっ! そっちに回れ!」
人の声がにわかにダンジョンに響いた。誰か来たらしい。
「『英雄の閃光』」
聞き覚えのある声だ。
「『武勇の波動』」
ズシンとエネミーが倒れる音。
「ふぃー……これで石碑……」
「齊藤さん」
俺が声をかけると、男がばっとこちらを見た。
「ござるさん! 探していたんですよ!」
前はタメ口だったくせに……。態度の違いに面くらいながらちょっと逃げかけたところで、齊藤はいきなり土下座をして来た。
「あの時は申し訳ありませんでした!」
「はあ?」
「ござるさんに失礼なことを言ったりして。お願いです! 俺たちに協力して下さい!」
「……何を??」
呆気に取られていると、田宮とルイも現れた。結局こいつら3人でパーティ組んだのか。ルイは忍者になっている。
「お! 忍者」
「はい。インフォマがクリアするには忍者が有利だと言うので。ただ、全然レベルが上がらなくて……」
「レベルなんぼ?」
「32です。ござるさんは」
「………36」
おお! と齊藤と田宮がガッツポーズをした。
「じゃあ、『飛天の書』が読めたんですね!」
「ああ。うん」
「そしたら、もう『サクリ持ち』の行方がわかるじゃないですか! 教えてください! どこに居るんです!」
サクリ持ち?
「……は?」
「もう命の水はあと何日も持ちません! すぐにでも鏡の城を見つけていけにえを捧げないといけない。お願いします!」
「なんで……やけに詳しいじゃないか?」
「ネットワークを作ったんですよ。殺し合いはやめて、出会うプレイヤー同士でマップの場所を担当しあって、石碑の文言とかクリアに関わる情報を一切共有してるんです! サタンさんを生贄に捧げればクリアできるのはみんな知ってますよ」
めまいがした。それじゃあ、サタンは誰に出会っても初手から危険じゃないか。
「後は鏡の城だけなんですよね。みんなあちこち探索してるんですけど……。今のところ、特別なダンジョンでも出るんじゃないかって結論に至ってます。それで忍者になれるやつらがみんな忍者になってレベル上げることにしたんですけど、なかなか上がらなくて。ござるさんは最初から忍者だったから忍者の中で一番レベル高いんじゃないかって探してたんです」
「……なんで? 『飛天』が覚えられるからか?」
「それもありますけど、対人じゃないですか! サクリ持ちが抵抗するんなら、忍者が一番効率いいねって」
「それでみんな今、忍者になってるってことか?」
「そうです」
対人……。
「あっ! ござるさん! 待って!」
対人。確かにそうだ。ルイを人質に取った時も。女子5人組を相手にした時も。こんなに簡単なのかと思った。人の背中を取れると言うのは。飛び道具を持っていると言うのは。魔法が打てないほど素早い動き。エネミーに相対した時とは比べ物にならないほど……。
「『飛天』」
マップには光点が光っている。走り出す。あいつらにはとてもついてこられないはずだ。
「ニド、忍者は対人特化なのか?」
[お気づきになりませんでした?]
このクソインフォマめ。




