13 いけにえ
「あっ」
ダンジョンに居る時だった。何人かのプレイヤーが入ってきた。いつもなら物陰でやり過ごしてそっと出るんだが、ちょうど全てのエネミーを倒し終わって石碑を眺めている時で、隠れるところがなかった。
「わー! 忍者さんだ」
「あの子は? なんだろ。魔法使い系だよね」
「パーティ組みませんかー?」
5人はいる。大所帯だ。
「まず石碑見よー?」
「えーと、『犠牲の血によって滅ぼす者は眠りにつく』だって」
年齢層が低く見える。女の子ばかりだ。サタンと同じくらいか少し年上といったところか。
「君たちもダンジョン回ってるの?」
「うんー。なんかねー、クリアしないとヤバげだからー」
「情報交換しない? 俺たちも石碑の言葉を見て回ってるんだ」
「いいよー。じゃー一回出よー」
普通のノリの普通の人たちに久しぶりに会った気がした。齊藤やらルイたちのパーティがおかしかったから余計だ。
「おじさんレベルなんぼぉ?」
おじさん……。
「34だよ」
「すっごぉ~。ウチら転職しまくっててぇ、25とかだよぉ」
「えー! 守ってー★って感じ」
「いやいや……」
照れる!! レベルが高いのはサタンのおかげなんだが。
道々、石碑の文言を確認したが、あまりためになるものは無かった。ふんわりしている。今までに俺たちと彼女たちの見つけたのは次の通り。
① いけにえを持つものを祭壇に捧げよ、さすれば滅ぼす者は封印されるだろう
②滅ぼす者を退けるには 犠牲を払わねばならぬ
③滅ぼす者は決して割れぬ鏡の城にいる
④ 祭壇に生贄を捧げれば『滅ぼす者』が姿を表す
⑤犠牲者の死肉によって滅ぼす者は眠りにつく
⑥ 地の果の扉を開けよ
「もしかして①は④と⑤まぜたのかも知れないな。①は聞いただけなんだ」
「そうかもねー。かぶりもあったし」
「鏡の城とやらに行かないといけないんだな。そしていけにえを捧げればクリア」
「ねー、おじさんも一緒に来ない? ウチらレベル低めだからさー」
「えー。どうしよっかなあ」
鼻の下が伸びているのを感じる。まあレベル高いからねー。頼りになっちゃうよねー。困ったなあ。
「じゃあパーティ組んじゃおうかー?」
「やったー! はい握手! 共闘ー」
女の子の手を堂々と握れるっていいゲームだなあ。役得役得ぅ! このゲーム売れるわ。
「えー何? サタンちゃんアクマなんだぁー。それって職なのぉ?」
「ちょっと……」
リーダーっぽい子が他のパーティメンバーを集めてごにょごにょと何か話し出す。時々ちらっと視線がこっちに来る。なんだ?
「おじさんとサタンちゃんてどーゆー関係? 親子とかぁ?」
親子!!
「違う違う! たまたま会ってパーティ組んでるだけだよ」
「あっ、そうなんだー。そしたらさー、ちょっと強めのエネミーのとこ行っていい? ウチらまだ倒せないんだー」
「いいよー」
一緒に混ざってるとこっちまで語尾が伸びてしまう。なぞの巻き込み力……。
「おじさんのスキル、これ何? 何て読むのぉ?」
「エイカチョウリョウだよ。敵の後ろに回り込めるんだ」
「回り込んでどうなるのぉ?」
ぐう。
「どうもならない。逃げたりするには便利だよ」
「えー………」
若干空気が冷えた気がする。俺を責めないでくれ。ゲームの設定を作ったやつが悪いんだ。マジクソゲーだよな。
やがて遺跡のようなところに出た。サタンはいるのかいないのか分からないくらい大人しく付いてきた。付いてきたのだ。珍しく。自分の足で。
「ここぉ」
「ニド、この辺の敵のレベルは?」
[フフッ]
えっ、今の「フフッ」って何?
[45前後ですよ。やめた方がいいです]
えっ!
「敵きたよぉー」
「おじさんがんばってぇー」
ええっ!
はっと振り向くと、女の子たちはいなくなっていた。そして石像がこちらに迫ってくる。あれが……
[ピュグマリオン。物理攻撃はほとんど通りません]
「ななな! どうすりゃいいんだ」
[逃げた方が]
石像はただ歩いてくるわけではない。結構なスピードだし、何かよくわからんビームを飛ばしてきて、当たるとやばい感がもりもりする。
「倒し方はないのか!」
[うーん、あなたは物理攻撃ばかりですからねえ]
物理……サタンの攻撃なら物理とは言わないだろう。
「サタン! サタン様!!」
サタンまでいない。死ぬう!
「『妨げる者』」
一瞬石像が動きを止める。レベルが高いからほんの一瞬だが、神の救いに思える。
「影下跳梁」
後ろに回り込む。毒の手裏剣を放つ。弾き返される。ですよねえ……。
ギギ、と石像がこちらを向き、改めて追いかけ始めた。神殿の瓦礫の上に飛び上がるが、ビームが連打で来る。近寄るのも一苦労だ。どっから出してやがんだ。石の塊のくせに……
石の塊か。
段差の激しくない場所に飛び降りる。石像はそこから遺跡に登り始めた。サタンが魔法を撃つが、やはり硬いのか少し揺れたくらいで効いていない。
「サタン、大丈夫だ。隠れてろ」
ビームが頬を掠める。火傷のようにひりひりする。少しずつ上に登っていく。梁の上を石像はよろよろと追ってくる。ぎりぎりまで引きつける。ビームを多少喰らうが仕方がない。石像の手がこちらに伸びる。
「影下跳梁」
ひらりと舞い上がり、石像の真後ろへ。
「くらえ!」
がらあきの背中に思いっきり蹴りを入れる。これで……
「あら?」
思ったより石像は重く、微動だにしない。むしろこっちの足が痛い。ピンチぃ!
「どけ! ござる」
咄嗟に梁から飛び降りるのと同時に、でかい黒い渦が石像のお尻のあたりをどついた。こちらに振り向きかけていた石像はさすがにバランスを崩し、スローモーションのようにゆっくりと、石畳に吸い込まれていく……。
ガゴンドゴンとものすごい音がして、もうもうと白い粉が舞い上がった。その煙の中に、首と腕、胴体が砕け分かれた石像が横たわっていた。
「おお……」
足元から風が吹き上がる。レベルが上がった。そりゃそうか。
「きゃー! 忍者さんすごおい!」
「忍者さんのおかげでレベル2個も上がっちゃったー!」
わらわらと女の子たちが沸いて来る。どこに居たんだこの子たち。
「いや、俺はだめだったんだ。サタンが……サタン?」
「あっ! そっち向いちゃだめえー」
「こっち来てぇ」
「んん?」
いやいや。さすがにこれは不自然だろ。
「サタン!!」
二人の女の子たちの手を振り切って神殿の梁に飛び上がる。猿轡を噛まされ縛り上げられたサタンが、3人の女の子たちに無理やりマップに連れ出されようとしているところが見えた。俺を追いかけてきた女の子が銃を構える。
「チッ……『烈火の弾丸』」
反射的に避ける。でも彼女の銃から放たれた弾丸は向きを空中で変えて追ってくる。これなんだ? 狩人のスキルなのか?
「サタン!」
弾丸から逃げながら、マップから出てしまった彼女らを追いかける。バカだった……。他のやつらを簡単に信用すべきじゃなかった。
マップに出ると、流石に弾丸は消えてくれたがサタンと女の子たちの行方もわからなくなった。いつの間にかパーティも解散されていた。




