焼肉に行く日と前回の訂正
秋
幾分と数が減った蝉の鳴き声、空を駆けるトンボ、夕暮れの鈴虫の音。
夏がなりを潜め、秋が徐々に姿を表すこの季節になるといつも思う。
あぁまた秋がやってきてしまった。
私は季節の中で秋が一番嫌いだ。
一番嫌いな季節の話になると誰もが示し合わせたのかのように、暑い、寒い、花粉、と理由を挙げ、秋以外の季節を挙げる。
しかし、それぞれの季節の好きなところの話になると、暑さにクーラー、寒さにこたつ、春の麗、などが好きであると口々に話す。
では一番好きな季節はと聞かれると、誰もが馬鹿の一つ覚えのように秋と答える。
もちろんそうでない人間もいるということは私とてわかっている。
アンチゆえの誇張表現が出てしまっていることは詫びたい。
では、私が何を言いたいのかというと、欠点がないことだけで一位の座に居座る秋の存在が許せないのだ。
他の季節はデメリットが同時にもたらす恩恵を多大に受けている。
しかしデメリットばかり大きく見えてしまう人間もいれば、その逆も然り、デメリットとメリットの均衡が人によって違うため彼らの順位はまばらとなる。
その横で秋は大概の人間にとってメリットしかないため均衡もクソもへったくれもなく、とりあえずまぁ一位かなと順位付けられる。
ここで一つ例を挙げ、質問を投げかけよう。
とある学生で、
・5教科の全てが平均点の者
・数学は高得点だけれども国語が赤点でそのほか平均点である者
の総合点が一緒だったとしよう。
この二人のうちどちらが優れているだろうか。
きっと、いろんな観点から考えてどちらが優れているとか、どちらも大差ないだとかいろいろなことを考えるだろう。
ではなぜ、季節になるとそれができなくなるのか。
自分なりしっかりとした論を持って秋を好きであると語る者にはアンチである私とて敬意を払う。
しかし、その他の季節の嫌な部分ばかり思い出して、積極的に、消極的である消去法を選びなんとなく一位に秋を据えるお前、そう、お前のような奴が秋をつけ上がらせているのだとここではっきり伝えておきたい。
先輩は二つ上の高校3年生で、5月の頭、委員会で困っていた僕に優しく話しかけてくれたことがきっかけで知り合った。
通学路が同じで、僕は先輩を一方的に知っており、綺麗な人だなぁと、憧れに似た淡い好意を持っていたので、初めて話した日思い切ってSNSの連絡先を交換した。
快く応じてくれて微笑んでくれた時、恥ずかしいけれども恋に落ちたことを確信した。
それからなんとか先輩の気を引こうとまめにメッセージを送ったり、いや待てよ、受験生だから迷惑なのではと戸惑いメッセージを取り消したりとしながら手探りで先輩と仲良くなっていった。
それとなくその話をすると、僕の心配をよそに僕との会話が、受験勉強の息抜きになると話してくれた時はより好きになった。
先輩はとても綺麗で物静かで優しく、大和撫子はこの人のことを指す言葉であると本気で思った。
しかもそれでいて話は面白く、教養がある人ってこういう人のことを言うんだろななんて思わせるような雰囲気があった。
時々一緒に図書館で勉強するようになったり、一緒に帰ったり、それとなく一緒に学校に行ったりと日々を過ごしていて、いつしか先輩が受験に受かったら告白をしようと僕は決めていた。
そんなこんなで時が流れ、夏も終わりかけたある日の下校中、先輩がこう洩らした。
「ブログでネットに日記を書いている」
特にその場ではふーんとか、へーみたいな反応を返したと思う。しかし、そこから僕の行動は早かった。
先輩のSNSの傾向や、ID、ハンドルネームの付け方、最近話したことなんかをもとにその日の日付が変わるごろ、そのブログを見つけた。(僕の変態性はほっといてくれ、みんなにもこういう時期はあったろう?)
先輩の好きなとてもマイナーなキャラクターのアイコンで紹介文はいかにも先輩らしいことが書いてある。
僕は半ば確信をもってそのブログの最新記事をひらいた。
ここで、話は冒頭の文に戻る。
あーーーこれ僕のことだぁぁぁと、ブログの話を聞いてからはほとんど上の空で話を聞いていたため、先輩の振った季節の話に適当に答えた記憶がある。
文章荒!、めっちゃ怒ってるじゃん、なんだこれと漠然とした驚きと不安、だが冷静な僕もいた。
さすが日記、途中から自分が秋が嫌いな理由じゃなくて、秋をフワッとした理由で好きな奴が嫌いな理由の話になってる。
しかも例え話も僕と話したことあるもので、それがこの日記が先輩のものであることを裏付けた。
僕は普段の先輩からは想像できない一面を見て、いけないことをしてる気分になり、ノートパソコンを閉じ布団に入った。
いろいろなことを考え、眠れない夜になるなと考えていたが気がつけば朝になっていた。
いつものように家を出て、学校に向かうと、先輩と会った。
おはようと微笑む先輩は今日という日の成功を確信させたが、心の安寧とは裏腹に僕はぎこちなく挨拶を返した。
先輩に動揺は伝わらなかったらしいがその瞬間、僕は言い訳をしなければという気持ちに苛まれた。
秋が好きなそれらしき理由を考えなければと、歩き始めながら僕の方からきりだした。
「秋ですね」
「そうだね、夏服はそろそろ終わりかなぁ」
僕に電流が走った。秋の好きな理由。これ以上ない秋の風物詩、衣替えだ。
「夏服もそろそろ見納めですね、冬服が楽しみです!」
「楽しみです!って変なの」
どうやらひらめきによって変な感じに喋ってしまったことが先輩のツボに入ったらしい、ツボが謎で可愛い、しかしコロコロとした笑い声、なんだ鈴の音か?と思う。
先輩のツボというSSRを引き当てたことで僕はその時テンションがどうかしていたのだろう。早口で捲し立てた。
「先輩の夏服も好きなんですけどね、冬服がみれると思うと、秋っていいよなぁー、好きだなぁ、って思うんですよねー」
「あーあと食欲の秋みたいな感じに言うじゃないですか、焼肉って暑いんで夏に食べる気しないんですけど、夏に我慢したぶん秋に食べる焼肉が美味しく感じられて好きですねー」
「先輩は焼肉は好きですか?」
「え…?、う、うん」
「じゃ、今度の日曜日行きませんか?勉強の息抜きにでも!」
「え?!行く、行こ、焼肉、行こ」
そこから僕は何を話したかは覚えていない。
一方的に何かを誤魔化すように話し続けたが、テンションが高まり、一瞬でデートの約束を取り付けたことで頭がいっぱいだった。
先輩は僕のテンションに引きずられたのだろう、先輩もなんだか少しテンションが変だったので可愛かったことは覚えている。
その日は上の空で過ごし、そして、その日はもう先輩に会うことはなく、家に帰った。
今日、僕の中で整理がついたことがあった。
少し動揺しただけでブログの先輩も先輩であるということ、もうブログを見ないようにしようということ。
この2点だ。
そして、ブログを閉じようと、ノートパソコンを開くと、ブログが更新されていた。
「焼肉に行く日と前回の訂正」
拙い文章にもかかわらず、読了ありがとうございました。