演説
デオンらが玉座前に現れると王と魔術師はひざまずいた。
「勇者様、税を減らすと貴族たちに言っても従ってくれなくて困っているのだ。彼らを説得してくれないか?」
デオンはいい加減面倒に思えてきた。
どうしてこの男の言いなりになる必要があるのか。自分がひざまずく主君はルイ15世で、エルトリア王マシロは腐れ縁で一応、主君として見ていた。
「しばらく外へ出てくる」
「マシロも遊びたいぜぃ」
デオンは城を出て、街中をぶらついた。
建物は補修した後が多く、即席で直した屋根の家も多かった。
「勇者様!」
町人が集まった。痩せた者ばかりだ。
「なぁ、市民と難民の大人全員を広場で集めてくれないか」
後に市民、ゴブリン、犬頭のコボルトの男女が集合した。
「まず議会が必要なので、政治に興味がある者は横へ並んでくれ」
ぞろぞろと人々が移動した。
「次にこの中からリーダーを決めたい。みんなのまとめ役で決めてくれ」
「勇者様か適任では?」
「私はだめだ。いずれここを去るからな。君たちで議会運営をしなければならないのだよ」
リーダーがすんなりと決まった。
「次に大事なのは議会選挙だ。まず、議員になりたい者が立候補して、定員までを皆で投票して決めるんだ」
議長と500人の議員が決まった。
「では諸君、果たして貴族連中が贅沢三昧するのは、それでいいことなのか? 彼らこそ国を貧しくしているのではないか? 食糧も独占しているのだろう」
広場でデオンは演説した。
「確かに貴族はいい思いし過ぎだ!」
「そうだ。そうだ!」
「富を占有するなんて許さないぞ!」
デオンは市民の意見にうなずいた。
「その通りだ! 富はいったん分配して、先をどうするかは諸君らで考えればいい」
演説を聞いた市民たちは歓声をあげていた。
デオンは翌日に学生や難民相手に似た演説をした。
さらに街の衛兵を集めて「王側について君たちはそれでいいのか? 一握りの者に権力を握らせて、それで君たちは幸せかい?」と説いた。
デオンは城へ戻ると王に「説得の手立てがついたのか?」と尋ねられた。
「ええ、市民は貴族の富の集中に不満を持っている。それに貴族らは気付いてくれたらいいけどね」デオンは笑顔で答えた。
しかし貴族たちは連日の宴会、舞踏会をこなしていた。