願い
今度も王の前へ着いた。
「その誇らしげな顔は分かるぞ! ついに倒してくれたのだな」
「そりゃ、両腕をズバッと切り落としてやったぜ」
麒麟から降りたデオンは得意げに語った。
「なんと! チビな娘顔の貴公がそんなことを!」
衛兵が詰め寄った。
「魔術師のおっさん、エルトリアへ帰してくれ」
デオンは灰色髭男に向いた。
「それが、一方通行のみの召喚術ですので無理です」
「何だと! この無能者! 何かの手立てを考えろ! こっちは娘たちと共にピアノを習う予定があるというのに!」
怒鳴ったデオンは帯剣を抜いて怯えた魔術師の顔面にちらつかせた。
「帰せ! 帰せ!」
サラマンダーマシロもはやし立てた。
「わしの書斎と図書室への観覧を許すから、そこで考えてくれ。それより魔王軍によって荒廃した国の経済を立て直してくれないか?」
王が懇願した。
「そんなの税金を安くしたり、毎日の宴会を控えたりすればいいだろうに!」
「けっけっけっ。こやつは英国の全権公使時代に毎日の宴会で上司に怒られたんだぜぃ」
マシロはせせら笑った。
「そんなに経済が厳しいなら貴族も働け! 贅沢するな! 宴会を程々にすればいいんだよ。ウィーン会議じゃあるまいし!」
怒鳴り散らしたデオンは王の書斎を侍従に案内してもらった。
本を手にすると文字がまるで読めなかった。
「だめだこりゃ」
マシロも呆れた。
「お前らいい加減にしろよ!」
デオンは魔術師に帯剣を向けて脅した。
「すまない。文字を読める術を施そう」
魔術師はデオンの額に光をあてた。
「マシロも読みたいぜぃ」
でぶトカゲも頭に光を通してもらった。
早速書斎でデオンは紀行本を探し、地図を見つけた。
大陸はクロワッサンに似た地形で、北方上が魔王国、南にナロ王国、隣国がアパノール王国とあった。
「アパノールだけ南西に長いんだな」
「パンの先っちょが魔王国。攻められて当然だぜぃ」
「そうだな。ナロ王国が中間位置か」
デオンは制服の中ポケットに地図を入れた。
「何か面白い本あるか?」
頭上のマシロが尋ねた。
「魔術と宗教と本ばかりで紀行本はナロ王国のみだ。こんな国はどうでもいい……」
「つまんねーな!」
「ドラマも観れないし、いまさら遅れた文化の所にいて、何の拷問だよ」
幸い図書室があるから少しは気が紛れそうだとデオンは感じた。
夕方、晩餐会にデオンらは出て、貴族たちから感謝された。
「この国経済やばいらしいと聞くけど、あんたらの遊びを程々にしろな。あと経済改革をすると国は豊かになるぞ」
「たとえ勇者であっても、若造に言われてもなぁ」
濃い髭の貴族が突っかかった。
「私は267歳だ。不老なものでな」
貴族たちは沈黙していた。
食事は肉の塊とごった煮のスープ、薄い小麦粉の皮のような円形のもの。
皆は皮を包んでスープに付けたり、切った肉にはさんで食べていた。
「これは珍妙な!」
マシロはテーブル上でスープの具を食べると貴族たちは珍しがった。
「メシはまぁまぁだぜぃ」
「まぁ、悪くないな」
果物もボウルに盛られていた。
食事の後にデオンはマシロを頭に乗せ、侍従に図書室へ案内してもらった。
侍従は光の玉を浮かせてデオンに預けた。
ろうそく代わりの光源はようだ。
図書室は広く、大型本棚に光玉があるが、薄暗かった。
「料理本くれ」
マシロがねだった本を取り、デオンは伝記と紀行本を探して2冊取った。
デオンはマシロの読む本をテーブルに置いて開いた。サラマンダーマシロの方がほのかに光るし、光源の足しになるのだ。
テーブルのマシロは長い舌でページをめくっている。
「これはハズレかな」
有益な表記がないのでデオンはあくびをした。
「もう寝る!」
読書をやめてデオンは侍従に部屋を案内してもらった。
大きな家具は懐古的でベッドが大きい。
デオンは制服を脱いで下着姿になって、髪留めをほどいた。
長い金髪を少し指でとかしてからデオンは寝た。
マシロはデオンの腹辺りにへばりついた。