召喚
1995年秋。眼下にブダ王宮と丘、ドナウ川と平地のペシュト側の街。
ブダペシュトを真下に眺めるように、白狼と麒麟(一本角のシカ型聖獣)は空を駆る。
白狼の頭は子犬大の太ったトカゲ、サラマンダーマシロが乗っていた。
麒麟には緑の王宮警備隊制服のデオン・ド・ボーモンが乗る。
デオンは後ろに束ねたブロンドの長い髪が、麒麟の緑たてがみと共に風になびいた。
白狼に乗る、涙型のでぶトカゲは足が異様に短く、尾も短い。
「変な光が出たぜぃ」
垂れた糸目のマシロは大口を開けた。
「うわっ!」
デオンは目をくらんで光の中へ飲み込まれた。
見慣れぬ円形の城塞都市から、城の中へ取り込まれた。
「これはたいそうな馬たちだな」
金と赤の豪華な衣服の王らしき者がデオンらを迎えた。
王座の間はヴェルサイユほどの高貴さはなかった。古臭い懐古的な内装といったところか。
「こいつ、小柄な女みたいな奴だなぁ」
横柄なごつい衛兵がデオンに寄った。
「失礼だぞ。このお方、勇者様は魔王を倒してくれる必要なお方だぞ」
茶色の髭面の王がたしなめた。
「では早速魔王を倒してくだされ。勇者様」
「待て、魔王とか勇者とは何なんだ? ここは何ていうところだ」
デオンは王を問い詰めた。
どうしてこんな珍妙なことになったのか、心の整理がつかなかった。
「これは失礼しました。ここはナロ王国で北東からの魔王軍からの侵攻で困り果てています。おお、素晴らしい剣をお持ちじゃないですか」
金色の握りと銀色の鳥の翼をかたどった鍔の帯剣を、灰色ローブの魔術師が褒めた。
「まずは魔王城の王の間で飛ばして差し上げます」
灰色長い顎髭の男が白狼と麒麟の前に光る扉を出してデオンらは吸い込まれた。
「やれやれだぜぃ」
マシロはデオンの頭上へ飛び移った。
「また変な城か……」
殺風景な城内へデオンらは放り込まれた。
「何だ、貴様らは?」
巨大な黒い狼が二足で歩いた。
赤い布を首に巻いた獣であった。
「魔王ってでかいだけの獣じゃないか」
麒麟で飛び回り、魔王のパンチ技をかわし続けた。
頭上のマシロは火炎を発射するように吐き続けた。マシロの牽制の中、デオンは魔王の両腕を斬り落とす。
魔王が突進するとデオンは胸に剣を突き刺した。魔王は倒れた。
「大したことなかったぜぃ」
「お前は火を吐くだけだろう」
全く楽なでぶトカゲだとデオンが安堵すると、また光に包まれた。
新生・妖精騎士デオンの暇仕事の外伝だけど、続編もあり